香川、柿谷、南野...。若手を次々輩出する「セレッソの企業秘密」 (2ページ目)

  • 飯尾篤史●文 text by Iio Atsushi
  • 益田佑一●撮影(試合) photo by Masuda Yuichi

 そんな最中、視察で訪れたイングランドのスタジアムで、宮本氏は驚くべき事実を知る。そこでは、ハーフタイムに宝くじの当選発表が行なわれていた。

「聞けば、売り上げの何割かがクラブの育成に充てられるという。それでも、(サポーターは)みんな、バンバン(宝くじを)買うらしい。『そうか、お客さんはクラブの未来につながることなら、お金を出してくれるのか、クラブの支えになりたいのか』って痛感し、『よし、これだ!』と思った」

 この宝くじから着想を得て、2007年に設立されたのが、『ハナサカクラブ』である。

「はなさかじいさん」を連想してネーミングされたこのクラブは、簡単に言うと、下部組織の合宿や遠征、練習試合、食事などの費用を寄付するための個人協賛会だ。ひと口3000円で、毎年募集している。

 現在、セレッソの育成組織は、ドイツ、スペイン、フランス、韓国などに毎年遠征しているが、そうした費用はハナサカクラブに集まった寄付金からねん出され、保護者の負担は限りなく抑えられている。下部組織にフィジカルコーチやメディカルスタッフがいたり、管理栄養士と契約して保護者のための栄養講習会を開けたりするのも、ハナサカクラブのおかげだ。

選手育成のために奔走している、育成部門の最高責任者である宮本功氏。選手育成のために奔走している、育成部門の最高責任者である宮本功氏。「寄付されたお金は育成にしか使いません。特典は一切なし。ファンドとしての大事なリターンは、選手の成長ということになります。したがって、データはすべて公開します。1年目の報告会では、寮生の写真を見せたんです。中学3先生のときと高校1年生のときの、全身写真を。皆さんの寄付金のおかげで、体がこんなに引き締まりましたよ、と」

 また、海外遠征を行なうようになったことで、指導者の目線も、選手の目線もグローバルスタンダードになったと宮本氏は説明する。

「これまでは、対戦相手や比較対象が国内でしたが、今は世界が対象になった。『このままで世界に勝てるのか』『世界に出て行けるのか』というのが、基準なわけです。当然、指導者の要求は高くなったし、選手の意識もすごく高くなりました」

 ハナサカクラブの支援を受けた一期生が、1990年生まれの山口の代。その下に扇原の代、さらに山口、扇原とともにロンドン五輪に出場したFW杉本健勇の代、2011年にU-17W杯に出場したMF南野拓実の代と続く。

「まだまだ道半ばです。やらなければならないことは多いですけど、一期生、二期生から代表選手が生まれたので、一応、有言実行になったかな、と思っています」(宮本氏)

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