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サッカー日本代表の対戦相手と試合会場はどこになるのか ワールドカップは抽選会にも歴史あり (2ページ目)

  • 後藤健生●文 text by Goto Takeo

【日韓W杯 抽選会のリハーサル】

 さて、W杯の組分け抽選会が注目を集めるようになったのは、当然、日本がW杯本大会に出場するようになった1998年のフランス大会からのことだ。

 そのフランス大会では、初戦でいきなり2度の優勝経験(当時)があるアルゼンチンと当たることになった。アルゼンチンとはそれまでにも親善試合では対戦経験があったが、「真剣勝負のW杯本大会では大敗してしまうのではないか」という漠然とした不安感を抱いた覚えがある(実際のスコアは「0対1」の惜敗だったが)。

 僕がW杯のドローを現地で経験したのは2002年日韓大会の時だった。当時、『スカパー!』で解説の仕事をしていた関係で、抽選会生中継の解説の仕事が回ってきたのである。決定した組分けを見て、見どころとか昔からの両国の因縁などを語るのが役割だった。

 抽選会は韓国釜山(プサン)の海雲台(ヘウンデ)地区にあるコンベンションセンター「BEXCO」で行なわれた。

 面白かったのは抽選会前日にあったリハーサルを覗けたことだ。

 これは、もちろん非公開。取材記者も入場できないのだが、ライツホルダー(放映権を持つ放送局)の力で覗かせてもらったのである。実際と同じように、ポットから順にボールが取り出され、組分け作業が行なわれた。

 そのリハーサルでの組分け結果はもちろん絶対部外秘だったが、いずれにしてももうとっくに忘れてしまった。当然のことながら、実際の抽選結果とはまったく違っていた。

 さて、本番当日。いつの大会でも同じだが、抽選会開始を前に長時間のイベントが行なわれた。共同開催なのに"日本色"はいっさいなく、ステージ上では韓国の伝統芸能が繰り広げられた。

 放送開始前の打ち合わせでは「イベント中は何もコメントしないで結構です」と言われていたので、安心してのんびり見物していたのだが、突然ディレクターから「何かコメントを入れてくれ」という指示が来た。

「えっ、聞いてないんですけど......」と困惑したが、仕方がない。覚悟を決めて伝統歌謡の「パンソリ」とか、仮面をつけた舞踊「タルチュム」などについて、乏しい知識を総動員してコメントした。「パンソリは日本の演歌の源流だという説もあって......」といったふうにである。

 今だったら、手元のスマホを使って検索しながら話せたかもしれないが、当時はそんな便利なものはなかった。

 したがって、曖昧な記憶に頼ったコメントばかりなので「専門家に聞かれたらツッコミを入れられそうだなぁ」と思いながらしゃべっていたのだが、ふと目の前を見るとコーディネーターとして入っている在日韓国人ジャーナリストなどが笑っているではないか。

 まさに、冷や汗タラタラの数十分だった。

 あれから24年が経過して、抽選会自体の記憶はほとんど飛んでしまったが、あの伝統芸能の時間のことだけはまざまざと記憶している。

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