巻誠一郎が見たドイツW杯の舞台裏「最初に感じたギクシャクした空気は初戦の負けで一気に表面化した」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

 試合後、ロッカールーム内は険悪な雰囲気だった。一部の選手がみんなに聞こえるように不平不満を言い放った。その声に対して、聞こえないふりをする選手もいれば、反応して言い返す選手もいた。

「これは、よくないチームの典型だなって思いました」

 翌日、クロアチア戦に向けて主力選手はクールダウンメニュー。控えの選手たちはトレーニングをしたが、チーム内の空気は淀んだままだった。

 練習では、紅白戦でサブ組の一部選手が主力組に猛烈なチャージを仕掛けるなどして、「自分らが試合に出たほうが強い」とあからさまに言う選手さえ出てきた。初戦の負けで、チームはバラバラになりかけていた。

「正直なところ、オーストラリア戦で負けて、というよりも、W杯に向けて海外組がチームに合流して始動した時から、チームの雰囲気が悪いというか、ギクシャクしている感じがあったんです。

 W杯という大きな大会の前だし、レギュラー争いもあるので、多少のピリピリは仕方ないなと思っていましたし、(本番前の)ドイツ戦が終わったあとは(このチームは)『試合ではやっぱり強いな』と思っていました。

 でも、最初に感じたギクシャクした空気は、その時も拭えず、チームとしてのまとまりはなかった。それが、初戦の負けで一気に表面化した感じでした」

 日本代表の指揮官であるジーコは、それでも静観しているだけで何も言わなかった。キャプテンの宮本恒靖の声も、主力組以外の選手には届かなくなっていた。

「僕は、この大会で"初めまして"といった部類の選手だったし、嫌な雰囲気のなかでも一生懸命練習するだけでした。あとは、チームのための雑用をするとか、そのくらいのことしかできなかった。ピッチに入ればがむしゃらにやりますけど、ピッチ外では何か役割を果たすことは無理、というか、自分がコントロールできるようなことは何もなかったです」

 2戦目に向けて、ジーコは3バックから4バックにシステムを変更。主力選手のうち最終ラインやボランチの選手は、練習中のピッチ上や食事会場などで戦い方について話し合いを続けていた。巻は、その輪のなかには入れなかった。

「ツネさん(宮本)とか、DF陣を中心とした主力選手たちはよく話をしていたんですけど、僕はFWだし、しかも5番手。後ろの選手にはまったく関わることがなくて、そういう会話にも入れない状況で、完全に蚊帳の外でした」

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