サッカー日本代表 北朝鮮戦のデータは不調を脱していない証 突きつけられた根本的な問題 (4ページ目)

  • 中山 淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi

【最後は追加点よりも逃げきり作戦】

 そんななか、森保一監督は58分に守田に代えて遠藤航を投入したが、それでも状況が変わらないため、74分に3人同時交代を断行。谷口彰悟を最終ラインに投入することで布陣を5-4-1(3-4-2-1)にシフトチェンジした。その采配で、確かにクロスボールやロングボール対応は安定し、前田と浅野拓磨を使ったロングカウンター、という狙いも見て取れた。

 しかし、実際に狙いどおりのカウンターから作った決定機は1度もなく、追加点よりも失点を防ぐ"逃げきり作戦"と化した印象は否めなかった。もちろん、この試合に限って言えば、この戦術変更が勝利につながったことは間違いないが、しかし今後を見据えた場合、その受け止め方は変わってくる。

 今後も続く格下との試合でも、前からはめられ、ロングボールを多用されたら、どんな相手に対しても同じ5バック戦術で対応するのか。自ら主導権を手放すような戦術変更が、本当にチームを成長させ、W杯ベスト8以上という目標達成に近づけるのか。今回の試合で日本が突きつけられた根本的な問題は、そこに潜んでいるのではないか。

 少なくとも、北朝鮮が後半に見せたプレッシングはとても組織的に機能していたとは言えないレベルで、ロングボール戦法にしても、アジアカップのイラク戦やイラン戦ほどの脅威とはなっていなかった。

 この試合の日本は、最終的に65.5%のボール支配率を記録したものの、前半は10本だったシュート数が後半になると5本に半減。クロスも前半の9本から後半は4本に減少し、前半に5本あった敵陣でのくさびの縦パスも、後半は1本もなかった。この数字だけを見ても、後半から試合の主導権が北朝鮮に移ったことが分かる。

 アジアカップのイラン戦では、同じような戦況を4バックのままでは耐えられず、パニック状態のまま敗戦を喫した。今回の戦術変更は、その反省から生まれた策と言えば聞こえはいいが、しかしそこには相手のレベルも加味した判断も求められる。

 解決すべきは、選手を代えず、ピッチ上の11人のポジショニングだけで相手のプレスを回避し、新たなボールの出口を作ることではなかったか。それによって前進ルートを取り戻し、試合の主導権を手放さないこと。その課題から目を背けて5バック戦術という逃げ道を作ってしまうと、永遠に主導権を握る試合ができなくなってしまう。

 W杯ベスト8以上を目指すなら、最低限、それくらいの実力はつける必要があるだろう。

プロフィール

  • 中山 淳

    中山 淳 (なかやま・あつし)

    1970年生まれ、山梨県出身。月刊「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部勤務、同誌編集長を経て独立。スポーツ関連の出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行なうほか、サッカーおよびスポーツメディアに執筆。サッカー中継の解説、サッカー関連番組にも出演する。近著『Jリーグを使ってみませんか? 地域に笑顔を増やす驚きの活動例』(ベースボール・マガジン社)

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