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なでしこのスピードスター宮澤ひなたの急成長 W杯でなければできない経験を糧にする

  • 早草紀子●取材・文・撮影 text&photo by Hayakusa Noriko

 女子ワールドカップの舞台で見た宮澤ひなた(マイナビ仙台レディース)は圧巻のスピードを誇っていた。これこそ彼女が持つ最大の武器で、ようやく戻ってきたと感じた。

 両者ともにノックアウトステージ進出を決めているスペインとのグループリーグ最終戦。12分という早い段階で先制弾を叩き込んだ宮澤は、この日まで無失点できていたスペインから2ゴールを奪い、グループリーグトータル4ゴール目、現時点でのトップスコアラーとなった。

予選3試合で4得点を挙げ、活躍している宮澤ひなた(中央)予選3試合で4得点を挙げ、活躍している宮澤ひなた(中央) 押し込まれる展開になる直前の一刺しだった。熊谷紗希(ASローマ)が、左サイドを上がる遠藤純(エンジェル・シティ)にフィードすると、すかさずDF裏のスペースへスルーパス。そこへ植木理子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)が走り込むことで、相手DF2人がその動きに釣られる。もう1枚のDFが追いつく間もなく最前線へ抜け出したのが宮澤だった。トップスピードに乗ったまま左足を振り抜いたこの1点が、そのあとに続くゴールラッシュの呼び水となった。

 もともと身体が小さく、最前線を張るタイプではなかった。転機は星槎国際高時代のFWへのコンバート。普通にプレーしていては勝負できない。ボールをどこに置けば優位になるのか、身体の角度にも気を配る。一つひとつの動作を自分のものにしていく過程で、アンダーカテゴリーの代表活動に絡むようになり、宮澤の視界は一気に広がった。

 2018年に池田太監督(現なでしこジャパン監督)のもと、U-20女子ワールドカップで世界一を経験。その勢いのままベレーザへ入団し、なでしこリーグ最後のシーズンには9ゴールをマークした。WEリーグ開幕時に移籍先として選んだのがマイナビ仙台レディース。トップ下のスペースを自由に動く宮澤は、ベレーザで揉まれたパスサッカーに持ち前のスピード感を融合させていった。

 東京五輪を目指すなでしこジャパンには定着できなかったが、池田監督がなでしこジャパンの指揮官に就任すると、再び代表に招集されるようになった。3バックを採用しはじめた昨年10月以降、両サイドにスピードとスタミナの持ち主が抜擢されるようになったが、ここは宮澤の得意なポジションだった。しかし、コンビネーションで崩す道を模索するも、彼女らしいスピード感が効果的に発揮される場面は徐々に少なくなっていった。

 ところが、本大会直前の壮行試合で宮澤に変化が起きていた。この時、宮澤自身も「違う質のスピード感を出せるようになった」と振り返っている。元々ゴールに向かう推進力の高いスピードを兼ね備えていたが、そこに加わったのが最初の数歩の瞬発的な加速だった。そのひとつが"裏へ抜け出るスピード"だ。ワールドカップ第3戦のスペイン戦では、新たに加わったこの瞬発力と持ち前の推進力とが合わさり覚醒した。

 宮澤は常々、「活かされるだけでなく周りを活かしたい」と言っている。ただの速い選手で終わりたくないという意地とプライドで培ってきたものを、このワールドカップという舞台で存分に発揮している。

 前評判の高かったスペインに押し込まれれば押し込まれるほど、ボールを奪ったあと、3トップの右を任された宮澤の前にはスペースが広がっていた。宮澤は「いつどのタイミングでこれを使うか」虎視眈々と狙っていた。

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