日本代表の勝利をたぐり寄せた選手交代のタイミング。早くても遅くても決勝点は生まれなかった (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by JMPA

初めて日本の16強に必然を感じた

 選手交代枠が3人制ならば、後半頭から一気に2人を投入することはなかったはずだ。劇的な変化が期待できる5人制の恩恵を見逃すわけにはいかないが、レギュラーとサブの境界線がない、悪く言えばどんぐりの背比べ、よくいえば粒ぞろいという日本の特徴を象徴する交代でもあった。

 最初に活躍したのは堂安だった。後半3分、自慢の左足でスペインゴールをこじ開けた。GKウナイ・シモンは前戦のドイツ戦でもフィードでミスを犯していた。バックラインと連係が取れていない様子だった。シモンはアレハンドロ・バルデにパスを送るも、フリーとは言えない状態にあったスペインの左サイドバックは、伊東純也の潰しに遭い、ボールを失う。次の瞬間、堂安がシュートを放った際も、GKシモンは準備不足だった。堂安をラッキーボーイにさせてしまった。

 その3分後、今度は三笘が活躍する。ゴールラインを割ったか割らなかったか、世界中で大騒ぎになっているマイナスの折り返しだ。1センチあるいはミリ単位の判定だろう。時間にすれば100分の1秒レベルではないか。そして筆者が熱望したように前半から三笘を投入し、エネルギーを消耗していたら、この走力は望めなかったはずだ。出場直後だったことが、快足を生んだ原因に他ならない。

 記者席から見通しがきくモニターでは、ドイツ対コスタリカの模様が映し出されていた。スコアは刻々と動いていた。日本の突破条件もそれに呼応し刻々と動いた。引き分けオッケーだったのが、引き分けではダメに変わるなかで、試合は最終盤を迎えた。だが、スペインもこのまま終えれば通過は確定するとあって、特別ギアを上げることなく、タイムアップの笛を聞くことになった。スポーツは筋書きのないドラマと言うが、最高峰のノンフィクションを見た気がする。本当に恐れ入るストーリー展開だった。

 日本代表のベスト16入りは、これで2002年日韓共催大会、2010年南アフリカW杯、2018年ロシア大会に続く4度目となる。しかしこれまでの3回は、大きな声では言いたくないが、マグレっぽかったり、下駄を履かせてもらったり、実力で勝ち取ったという感じではなかった。

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