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冨安健洋がベトナム戦「影のマン・オブ・ザ・マッチ」。組織機能なき森保ジャパンは個の力に頼る (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Reuters/AFLO

「いい守りがいい攻めを作る」

 森保一監督はプレーコンセプトをそう唱えているが、その回路を冨安はピッチで動かしていた。

 後半には象徴的なシーンがあった。左サイドバックの長友佑都がパスカットで飛び出すが、コントロールが大きくなって相手に奪われてしまい、その裏を襲われかけている。しかし、冨安は事前に攻め手の動きを読み、危なげなくカバー。すかさずプレッシングを受けたが、少しも動じていない。落ち着いて、その裏にいた南野へ、カウンターにつながるパスを出す。それもふわりと浮かし、相手の頭上を抜くパスだった。結局、南野がファウルを受けてカウンターは発動できなかったが、マイボールで自分たちにリズムを引き戻した。

 プレミアリーグのアーセナルでプレーする冨安の実力は伊達ではない。今シーズンは右サイドバックでプレーする機会が多いが、セリエAでの戦いも含めて、有力選手との対峙で得た間合いは次元が違う。アジアでその存在は図抜けている。

 ベトナム戦における守から攻へのつなぎの部分の技術の高さは「日本サッカー史上最高のセンターバック」の領域に入っていた。

 コントロールやキックに派手さはない。しかし迅速かつ適切なだけに、その後のボール運びがスムーズになる。後半、バックラインでのパス回しからテンポよく縦にいる選手へボールをつけ、そこから自然とゴール前まで迫るシーンがいくつかあった。とりわけMF田中碧との呼吸はぴったりで、田中はメッセージを受け取ったように前を向いていた。冨安は、戦術にもコミットできる力を示している。それはチームの地力にもつながるだろう。

 ただし、ベトナムのように力が劣る相手ならまだしも、どこまで個人で組織を補完できるのかという不安はある。

 吉田麻也とコンビを組む冨安だが、守備に重点を置く限り、チームが不調になるとバックラインは下がり気味にならざるを得ない。ベトナム戦も例にもれず、前線だけが張り出す格好になってしまい、中盤が空いて、戦線が伸び切っていた。それがまた、攻守の悪循環を生んでいるのだが......。

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