川口能活が若手GKの海外挑戦に「僕のマネをしてほしくない」と言う理由 (4ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • photo by AFLO

「ポーツマスは軍港の町なんですけど、加入した1年目は軍の施設内で練習していたんです。スタジアムの芝は最高だったんですけど、練習場はまるで田んぼのようにグチャグチャ。それでもチームメイトは変わらぬクオリティを練習でも試合でも見せていたことには驚きました。

 しかも、練習の最後に必ずミニゲームをするんですけど、その強度が本当に高かったんです。そこにフィジカルやテクニック、加えて判断力のすべてが凝縮されていた。やっぱり、練習で行なわれていることが、そのまま試合に出るというのを体現していたというか。

 当時の2部はリーグ戦が46試合。加えてカップ戦もあったので、今季のJリーグのように週2試合ペースで公式戦を戦っていたのですが、練習強度がずっと高いまま続いていたんです。日本にいた時も練習と試合で同じ意識を持って臨んでいたつもりでしたけど、それをさらに意識づけされました」

 ポーツマスでの1年目は、リーグ戦11試合の出場に終わった。ポジションを争っていたデイヴィッド・ビーサントは、ほかでもない当時の監督が自ら声をかけて連れてきた選手だった。

「経験も豊富で、イングランドのサッカーを熟知していたGKだったんですよね。僕は欧州でプレーしたいという一心で、そうした状況にあることを調べもせずに移籍してしまった。だからもし今、若いGKに言えることがあるとすれば、ポジションがひとつしかないからこそ、当時よりも情報が得られる時代だからこそ、きちんと調べてから決断してほしいなと思います。

 チャレンジする姿勢は持ち続けてほしい一方で、マネしてほしくはないという思いもあるんです(苦笑)。GKにとってシーズン途中の移籍はリスクが伴う、ということも覚悟してほしい。だから、行く先の状況、今いる状況を冷静に見極めて、自分にとって何がベストかを真剣に考えて判断してほしいと思います」

 その後、さらに多くの経験を積み、今や指導者になったから紡がれた言葉でもある。ただ、行かなければわからなかったこと、得られなかったこともある。

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