猶本光を突き動かすドイツで生まれた感情。来年の五輪までの目標は (2ページ目)
森監督がこのチームで猶本に託したポジションは、トップ下。これまで担っていたボランチとは違う動きでありながら、しっかりとはまっている。トップの菅澤優衣香、中盤、サイド、サイドバックに至るまで、猶本はあらゆるポジションの選手と絶妙なバランスで絡むのだ。しかし、ここへ到達するまでには苦難の道のりがあった。
「ボランチだと試合中にゴール前まで出ていけるのは1シーンか2シーン。何より攻撃しているときも守備のリスクマネジメントのことを考えちゃうんです。トップ下は、GKと1対1のときはどこを狙うのか、こういう局面はどういうシュートが打てるのか、こうしたら相手DFはどう反応してくるのか、と考えながらプレーするのですが、最初は自分にそういった引き出しがなかったんです」
では、猶本はそれらの課題をいかに克服したのか。答えは森監督ならではの練習にあった。
重要視したのはゲーム形式だ。フルコートでの紅白戦や、ペナルティエリア内でのミニ
ゲームもある。実戦を選手たちに意識させ、ミックスしていく。そのスタイルで練習することにより、試合に必要な経験値を重ねることができた、と猶本は言う。
そしてもうひとつ彼女を大きく動かしたのは、ドイツで生まれた"ある感情"だ。SCフライブルクでもトップ下を担っていたが、そこで求められていた仕事は今とは異なるものだった。ドイツでは、スピードを持つ選手たちに囲まれていると、ゴール前で誰もがラストパスを欲しがる。自らのシュートを選ぶよりも、どの選手に打たせるかを考えながら常に、パスを選択している猶本がそこにはいた。
「自分はシュートに自信もないし、周りの選手も動いてくれている。だから『そこにパスを出しちゃった方がいい』って思ってました。でも同時に、『自分がトップ下をやってるのに』『"10番"をやってるのに』というもどかしさもありました」
そして帰国した猶本に任されたのが、ドイツでもどかしさを感じていたトップ下だったのである。
「今度はゴールを決められる選手を目指したい、と思いました」
猶本にとって、これはリベンジでもある。その決意が明確に現れているのがシュートだ。
彼女のその変化を目の当たりにしたのは開幕戦、猶本の初ゴールのひと振りだった。水谷有希がドリブルから中へ送ったボールを柴田華絵が軽くはたくと、合わせて動き出していた猶本がすぐさま左足を振り抜いた。相手DFがひしめく中央の狭いスペースで仕掛けながら、最後のパスを受けてシュート。
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