なでしこが反省だらけも嬉しい優勝。数々の挑戦と守備の向上を見せた (3ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・写真 text&photo by Hayakusa Noriko

 また、今大会での収穫はやはり守備だろう。最終ラインは鮫島や阪口萌乃(アルビレックス新潟)、國武愛美(ノジマステラ)といった本職でないポジションに起用されている選手も多く、真の意味での"安定"にはまだ遠い。わかりやすく"穴"が空くこともあるが、そこは経験で埋めることができる。少なくとも、清水梨紗(日テレ・ベレーザ)、三宅史織(INAC神戸)、鮫島を揃えていれば、ここで1枚新戦力を投げ入れてみても大崩れはしない。7月下旬のアメリカ遠征からアジア大会への約1カ月で、阪口、國武といった新戦力は"崩れさせない"レベルのプレーは十分に発揮したと言える。

 阪口は北朝鮮戦で痛恨のファウルでPKを献上した。結果、1点差となり流れが変わりかけたがここも守備陣が踏ん張った。負ければ敗退のプレッシャーの中での悔いの残るプレーに試合終了後には涙が溢れた。どこのポジションでも同じだが、最終ラインは一つの判断ミスが失点に直結することもある。こればかりは痛い経験でしか学ぶことができない。

 有吉佐織が(日テレ・ベレーザ)なでしこに招集され始めた頃にも同じことがあった。奇しくも同じ左サイドバックとして起用されたとき、侵入を止めたい一心で飛び出したファウルがあった。そのときの有吉は落ち込みながらもこう言った。

「同じ状況が起きて行くか行かないかとなったら、やっぱり行くと思います」

 抜けさせて1点失点になるのであれば、そこで止められる可能性にかける覚悟は必要不可欠。いかにして止めにいくかを体得していくためには、ファウルももらってみなければわからない。その怖さを知った阪口はここからが本物のサイドバックとして成長できるに違いない。

 メダルセレモニーで金メダルを手に笑顔をこぼす、なでしこたち。それでもピッチから離れればすぐさま反省。それもまたなでしこらしい姿だ。不完全でも不満足でもいい。勝利のための執着を捨てたらそこで終わりだ。確かに複雑な心境は察するにあまりあるが、どんな形でも優勝にたどりついたことは紛れもない事実。そこに勝利への要因は確かにあったのだから。彼女たちの苦悩の末の輝きとともに、8年ぶりに聞いた『君が代』は当時となんら変わることなく、誇らしく感じた。

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