【なでしこ】仲間たちが語る、澤穂希という存在の大きさ
最後のホイッスルが響き渡るその瞬間まで彼女は澤穂希であり続けた。誰よりも頼もしく、どこまでも清々しい、見事なまでの潔さ――確かに澤穂希の"生き様"がそこにあった。
自らの得点で皇后杯優勝を決めて、有終の美を飾った澤穂希 苦しんだシーズンだった。所属するINAC神戸レオネッサは、なでしこリーグで3位に沈んだ。INACは数多くのなでしこジャパンメンバーに加え、ユースカテゴリー代表経験者を揃える。十分な戦力を持ちながらも、結果を出すことができないシーズンに苛立ちが募った。
そんなムードを払拭したのが皇后杯準々決勝を前に発表された澤の引退発表だった。準々決勝の3日前に発表された引退から決勝までわずか10日あまり。焦燥感や困惑、寂寥(せきりょう)感......チームメイトは澤を失う現実を実感した数日だったに違いない。しかし、チームの雰囲気は一変した。澤本人の狙いもあった"ショック療法"は功を奏した形となったのだ。
準々決勝、準決勝を勝ち進み、迎えた12月27日の決勝の相手は"3度目の正直"で初優勝を狙うアルビレックス新潟レディース。攻撃を組み立てるINACを、緻密に練った対策で封じる新潟。一進一退で進む試合はスコアレスのまま後半に突入する。試合が動いたのは後半33分のことだった。蹴る直前、澤のゴールを生むために神に祈ったという川澄奈穂美からのボールに澤がしっかりと頭で合わせた。DFのマークをかいくぐっての会心の一撃だった。
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