鈴木大輔、代表を語る。「本田圭佑に見たメンタルの重要性」 (5ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AFLO

 定位置をつかんでいたアルビレックス新潟を離れ、実力者の多い柏に飛び込んできたのも、緊張感を失いたくないというのが大きな理由だった。保証のない場所に自分を置いて競う。その凌ぎ合いの中で、殻を破ることを彼は求めた。剣豪が強い敵との立ち合いで死線をくぐり抜けるように。生き延びることができれば、階段を上がれると信じ、一心に戦いを続けてきた。

 いつしか柏で先発メンバーに定着し、代表にも招集されるようになった。

「自分は“石川でサッカー選手として育ててもらった”と思っているんです」と鈴木は優しい顔で語る。

「それで、一度指導者の人たちに向けて、感謝の気持ちのビデオレターを送ったんですよ。それを見た指導者の方々が、涙を流してくれたらしいんです。『全国と比べたら恥ずかしい指導レベルなのに、よく育ってくれた』って……。トヨ君(豊田陽平、星稜出身)や圭佑君もそうですが、自分がこれから活躍することで、石川から世界と戦える選手になれることを証明したいですね」

 サッカー界では辺境と言える土地で、男は逞しく育った。

 しかしそれは珍しいことではない。良質のワインは痩せた土地でこそ育つという。土壌の養分が少ないため、ぶどうの木が栄養を求め、地中深くまで根を張り巡らす。その木は雨水を吸いすぎず、ミネラル分を多く含んだ地下水を吸収することで、芳醇な実をつけるのだ。
(つづく)

5 / 5

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る