【なでしこ】課題山積も、惜敗のドイツ戦で予想以上の収穫あり (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko photo by Hayakusa Noriko

 オコイノダムバビのクロスがこぼれたところをファイストが押し込んでゴール。日本は、立ち上がりにバタつきが目立っただけに、無失点で切り抜けたいところだったが、鮮やかに決められてしまった。

 ところがこの失点のダメージは、チーム内にほとんどなかったという。

「不思議なんですけど、みんなすぐに顔を上げられた。追いつけるって感じたんです」とは岩清水。その予感は的中した。17分、日本に同点弾をもたらしたのは、期待の新人・田中美南だった。

 田中美南は、大分合宿では、ポルトガル遠征の選考対象となる"なでしこチャレンジメンバー"ではなく、"U-19代表"として招集されており、「"チャレンジ"に入れなかったことは悔しい」と感情を隠さなかった最近では珍しいタイプの選手だ。

 そのプレイに強い興味を示していた佐々木監督は、彼女をアルガルベカップに招集し、今大会の優勝大本命とも言えるドイツ戦でのスタメンに抜擢した。その期待に、田中美南はゴールという最高の形で応えてみせたのである。

「(ボールが)こぼれてきたらいいなって思って走り込んだら、本当に来た!」と、こぼれ球を落ち着いて蹴り込んだゴールは、田中美南のプレイに勢いをつけた。

 その陰には、先輩たちのフォローがあった。2トップを組んだ大儀見は、裏を狙ったパスを味方から引き出す技術は世界でもトップクラス。この日の大儀見は田中美南を生かすべく、彼女の動きを注視していた。緊張の見える相棒にキックオフ直前に声をかける。「自由にやればいいんだよ」。そのひと言で田中美南は高まる気持ちを落ち着かせることができた。そして、彼女の同点ゴールのアシストは大儀見の身体を投げ出してのダイビングヘッドだった。

 また、田中美南は、左サイドでは川澄とポジションを変えながらタメを作り、川澄のシュートチャンスも生み出すことにも成功。彼女の動きを理解してそれに呼応する先輩たちのバックアップで、田中美南の持ち味が引き出されていった。とはいえ、簡単にゴール前で仕事をさせてもらえるはずもない。ドイツDFに瞬時に囲まれて潰されることも多かったが、デビュー戦としては及第点。佐々木監督にとって収穫のひとつといえるだろう。

 その後も、試合は豪雨と強風の影響をまともに受け、1-1の膠着状態が続いた。前半、風下にいた日本は、後半、風上に立てるかと思われたが、風向きが急変。再び風下になってしまい、その結果、手痛い勝ち越し点を奪われてしまう。55分、マロジャンのFKは風に乗ると、GK海堀あゆみの頭上を越え、そのままゴールネットを揺らした。結局これが決勝点となり、日本は2連敗。優勝の可能性が消滅した。

 この試合、結果こそ伴わなかったが、新たな変化も見られた。なでしこの代名詞でもある高い位置からのプレスはそのままに、ポジショニングを調整することで、手数をかけない効率的な守りを展開するシーンが見られた。さらに、宇津木が汗かき役を自ら買って出たことで、周りの選手の負担は減少した。

 ピッチ状況も考慮しての選択であったにせよ、狙いどおりに機能する時間帯もあり、キャプテンを務めた大儀見も、「それほど運動量を必要とせずにボールを奪うことができた」と、新たな収穫もあったようだ。

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