江川卓とほかの速球派との決定的な違いを元ヤクルト水谷新太郎が語る「どこに力が入ってんの?」
連載 怪物・江川卓伝〜水谷新太郎が垣間見た指導者としての才(後編)
前編:江川卓の才能に慄いた不動の遊撃手・水谷新太郎はこちら>>
1970年後半から1980年中盤にかけてヤクルトの遊撃手として活躍した水谷新太郎は、江川卓との通算対戦成績は99打数25安打(打率.253)、1本塁打、10打点。江川と100打数前後対戦したヤクルトの中では、若松勉、角富士夫に次いで3番目の成績だ。
「江川は真っすぐ、カーブとも、わざとボールを投げられるだけのコントロールを持っていたと思いますよ。カーブを投げ分け、真っすぐは高めで勝負してきた。高めのストレートのイメージがあると、カーブでやられるんですよ。ほんとにブレーキが効いていて、カーブだとわかっても一瞬アゴが上がってしまうから手が出ないんですよね」
かつてヤクルトの遊撃手として活躍した水谷新太郎 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る
【絶対にカーブを打たなきゃダメだ】
江川のカーブは、決して"魔球"と呼べるほどのものではない。ただ、やはりあの速いストレートがあるから、打者にとっては厄介なボールになるのだ。江川の異次元のストレートに意識がいけばいくほど、カーブに反応できないという。
しかもバッターの雰囲気から相手の狙い球を察知する能力が高い江川は、ストレートに絞っていると判断すると、カーブで簡単にストライクをとってくる。打者にしてみれば、意表を突かれたというより小馬鹿にされた感じで打ちとられていく。"江川流"といえばそこまでだが、元来の速球派のスタイルとは確実に一線を画す。
「江川から2割5分ほど打っていますが、全盛期ではなく肩を痛めたあとに打って、それくらいの率になったと思います。江川との対決のなかで印象的な打席っていうのはないんですが、カーブを狙い打ちしてセンター前に打った時は、『よっしゃー、打ったぞ!』と心の中で叫びました。真っすぐばかり狙ってやられっぱなしだったので、一度カーブを狙ってみようと思って」
開き直って真っすぐを捨ててカーブ一本に絞り、見事ヒットを放った喜びは今でも覚えているという。ならば、ほかの打者もカーブを狙えばいいと思うかもしれないが、ことはそう単純ではない。
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著者プロフィール
松永多佳倫 (まつなが・たかりん)
1968 年生まれ、岐阜県大垣市出身。出版社勤務を経て 2009 年 8 月より沖縄在住。著書に『沖縄を変えた男 栽弘義−高校野球に捧げた生涯』(集英社文庫)をはじめ、『確執と信念』(扶桑社)、『善と悪 江夏豊のラストメッセージ』(ダ・ヴィンチBOOKS)など著作多数。