江川卓から代打安打で1万円ゲット 豊田誠佑は「今日があるのは江川さんのおかげ」と怪物に感謝した (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

【代打安打で1万円ゲット】

「江川さんから打ったヒットで、個人的に印象に残っているのは後楽園で打ったホームランかな。昭和59年8月末の巨人戦、8回に真っすぐを思いきり引っ張って、レフトスタンド中段まで飛んだのかな。江川さんが先発の時はけっこうスタメンで使ってもらっていたから、『なんとか結果を出さないと』と必死でやっていました」

 1984年8月27日、後楽園球場での巨人戦。先発の江川が7回まで中日を1点に抑え、4対1と巨人がリード。ところが、8回に豊田、9回に宇野勝にそれぞれソロホームランを打たれ1点差に。それでも最後はリードを守りきり、巨人が4対3で勝利した試合だ。

 豊田が「個人的」と注釈を入れたのは、やはり江川から放ったヒットで最も印象的なものに、中日が優勝した82年シーズン終盤の天王山での1本があるからだ。江川から最終回に4点差を追いつき同点にし、延長10回裏にサヨナラ勝ちをした試合だ。

「9回裏、先頭打者の(平野)謙さんの代打で出たんだよね。その頃、仏壇の永田屋さんが"代打ヒット賞"と称して1万円の賞金が出ていたんです。だから、ヒットを打った瞬間は『よしよし1万円もらった』と日当を稼いだ思いで一塁を駆け抜けましたよ(笑)。そしたらケン・モッカ、谷沢(健一)さんがヒットでつなぎ、満塁になって、大島(康徳)さんの犠牲フライでオレがホームに還ってきた。

 それでもまだ3点差でしょ。『これだけつながればいいか。今日はヒットも出たし』と喜んでいたら、そのあと宇野(勝)がレフトに、中尾(孝義)がライトに打って『えっ同点になっちゃったよ』と。延長戦に入って、最後は大島さんが抑えの角盈男からセンター前にヒットを放ってサヨナラ勝ち。この試合、負けていたら優勝はなかったね」

【中日退団後に居酒屋を開業】

 82年の中日優勝のターニングポイントになった試合として、今でも語り継がれる伝説の一戦である。難攻不落と言われていた江川から9回に4点差を追いつくこと自体、奇跡に近い出来事だった。その口火を切ったのが、先頭打者として三遊間にヒットを放った豊田だった。

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