江川卓と谷沢健一の真剣勝負 ストレート4球に込められた意地とプライド (3ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

【4球続けて高めのストレート】

 2球目、いつものようにゆったりしたモーションから、軽々と投げ込んだ。真ん中高めギリギリのストレートが「ギュイーン」と加速してくる。その球に谷沢が反応すると、その刹那「ガシャ!」という音とともに、ボールはバックネットに当たりファウル。

「当てた⁉︎」といった具合に、江川はほんの少しだけ顔を崩した。

 谷沢はすぐさまバッターボックスを外し、バットを体の手前で小さく振り、左腕を軽く回しながら、再びバッターボックスに入った。しかし、右手でストップとかざしながらバッターボックスをすぐさま外し、バッティンググローブをはめ直した。

「次はカーブか......⁉︎」

 ここまでストレートが2球続き、江川の切れ味鋭いカーブがそろそろ来るだろうと予測してもいいタイミングだが、谷沢にとってカーブなどなかった。

 第1打席で真っすぐを引っ張り、ライト前にヒットを放ている。タイミングは合っていた。谷沢は自分に言い聞かせるように「真っすぐだ」と、心の中で反芻した。江川の早いテンポに合わせてしまうと術中にはまってしまう。だから谷沢は、自分のペースを保ちながらバッターボックスに入り直したのだ。

 2ストライクからの3球目も、ややインコース寄りの高めのストレート。谷沢は渾身のフルスイングをするも、球審の腕あたりに当たるファウル。

「よし、タイミングは合っている」

 ここまで遊び球なしのストレート3球。マウンド上の江川を見る限り、真剣勝負を挑んでいるのがわかる。ポーカーフェイスが信条の江川の顔は、「打てるもんなら打ってみろ」と言っているようだった。

 谷沢は静かに燃えていた。江川の顔を凝視するがごとく睨みつけている。

 そして4球目、ワインドアップから投じられた豪速球がまたしても高めに入った。

「カキーン!」

 寸分狂わぬシャープなスイングから放たれた打球は、ライトスタンドに突き刺さった。

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