江川卓と谷沢健一の真剣勝負 ストレート4球に込められた意地とプライド (2ページ目)
【意地と意地の真剣勝負】
マウンドの江川は余裕しゃくしゃくといった佇まいで、ただでさえ大きな体がより大きく感じる。
江川は捕手のサインを見る際、両足を揃え、膝を少し曲げ、両膝の上に両手を置き前屈みになってのぞき込む。テレビ画面には、江川の大きなお尻が突き出るように映る。足腰を鍛えれば鍛えるほど腰回りが大きくなり、この下半身の大きさこそがパワーの源となっているのだ。
サインが決まると、体を起こして左足を引き、両手を抱えて真上に上げてから少し後頭部方向に曲げて間を置くワインドアップが、なぜかふてぶてしく見える。そこから反動をつけて振り上げた左足を顔の位置まで高らかに上げ、一瞬だけ膝を伸ばし、軸足を少しヒールアップするポストポジション(軸足だけで立ったときの姿勢)。このダイナミックな姿こそ、江川卓の真骨頂である。
そこから体重移動とともにキャッチャー方向につま先が着地する間、ほとんど力感のない右腕は小さめなテイクバックから鞭のようにしなりながら縦に円運動し、つま先が着地すると右ヒジを支点にした右腕はしなやかに伸び切り、スナップを効かせたボールが「パチンッ!」と放たれる。
弾道はライフルのように鋭く、正確無比なコントロールなうえ、大砲のような威力を持つ真ん中高めのストレートが唸りを上げる。
「ズバーン」と引き裂かれるようなミット音と、「ブルン」と砂埃が舞い散るほどのフルスイング音が共鳴したようだった。
空振りで1ストライク。ボールはバットのはるか上を通過し、見送ればボール。それだけボールが伸びている証拠だ。あまりに力感がなく、ゆったりしたフォームから繰り出されるボールの威力とのギャップが激しすぎる。
江川の高めのストレートは、物理の法則を無視したホップするボールとも言われ、誰もまともに打ったことがない。この当時もスピードガンはあったが、今と比べるとかなり性能が悪く、今だったら160キロ近くは出ていたと言われている。
「オレの高めの球は打てないって」と深奥でつぶやくかのように、江川は当然といった表情でキャッチャーからの返球を受けとった。
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