江川卓とのプロ初対決 掛布雅之は初球カーブに「その時点で勝ったと思った」とホームランを放った (2ページ目)

  • 松永多佳倫●文 text by Matsunaga Takarin

 そして5球目、またしてもカーブが来たが、うまく反応したとらえた打球はライトスタンドに飛び込んだ。

「カーブが投げ込まれたんですけど、それまでに3球カーブを見てますので、目がカーブと判断した瞬間に体が反応しているんですよね。真っすぐのタイミングで打ちにいっているのでちょっと泳がされているんですけど、右のヒザが止まって壁があるのを感じていました。構えているバットが自分の体の前を通っていく感覚っていうのは、今でも覚えています。打った瞬間に入ったという手応えは感じました」

 通常、ストレートを待っていてカーブが来れば、タイミングが外れるが、一流打者はそうではない。掛布は自分がイメージしていたストレートよりも速さを感じなかったことで、ストレートを待ちつつカーブが来ても反応できると思っていた。

 つまり、ストレートを待っていてカーブが投げ込まれた瞬間、「カーブだ!」と認識しただけで体がうまく反応するというメカニズムを構築していたのだ。その結果、大きく泳がされることなく、うまくボールを乗せてライトへのホームランとなった。

【バットを短く使いたい】

 初打席でホームランを打ったが、それでも掛布は江川と対戦する時、常に"怖さ"を抱いていた。

「やっぱりわかっていてもストレートを投げ込んでくる、その怖さですよね。だから、江川も僕も対戦する時は、ひとつのキーワードとして"怖さ"があったかもしれませんよね。ひとつコースを間違えれば、スタンドまで持っていかれるかもしれない。でも、そこに投げ込んでくる江川の怖さを感じながら、カッコよく言わせていただくと"紙一重"の勝負をさせてもらっていた。

 ギアが上がった瞬間は、目を見るとわかりますよ。『行くよ』みたいに変わる。それが怖いんですよね。相手にわかるように、わざと目の色を変えながらストレートを投げ込んでくる。だから、裏の勝負はないですよね。すべて表の勝負をしたと思います」

 真っ向から唸りを上げて投げ込んでくるストレートに畏怖の念を感じるしかなく、それに対応するためには、いかに自分のベストスイングをするのかだけを心がけていた。

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