WBC準決勝の舞台裏を城石憲之が振り返る「ロマンが結果につながる」栗山采配のすごさ (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 編集協力●市川光治(光スタジオ)

 ムネは当然、何だろう、と不安そうな顔になります。僕はすかさず「監督がムネに任せたと言ってるから」と言いました。そこは監督の言葉なので、僕がいじって伝えたらダメだと思って、シンプルにそのまま伝えたんです。で、続けて僕は「思い切っていけ」じゃなくて「思い切っていってこい」と言いました。

 その意図は......何だったんですかね(笑)。よくわからないんですが、いつもなら僕は「思い切っていけ」と言うんです。でも、あの時はその言葉が出なかった。「思い切っていってこい」と......じつは監督の言葉を伝えた直後、ムネがピッチャーのほうを見たんですよ。だから、ムネの背中を叩いて送り出す形になったので、自然に「いってこい」という言葉が出たのかな。

 世界一になった瞬間、監督、子どもみたいな顔をしていましたね。宮崎合宿の時、監督が「決勝で"あるピッチャー"がガッツポーズをしている絵が浮かぶんだよね」と話してくれたことがありました。いやいや、"あるピッチャー"って、監督なら翔平しかいないじゃん、と思いました(笑)。

 でも翔平が決勝で投げて、勝った瞬間にマウンドでガッツポーズしてるってことは、先発して完投するか、クローザーじゃないですか。どっちもあまりに現実的じゃなくて、これまた凡人は、そんなわけないと思ってしまいますよね。僕も「それ、誰ですか」なんて野暮なことは監督には訊きませんでしたが、終わってみれば監督の夢が現実になったわけで、それはこれまでにたくさんの徳を積んできた監督だからこそ、正夢になったんだと思います。

プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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