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斎藤佑樹の心を蝕んでいった「函館のトラウマ」 真っすぐをストライクゾーンに投げることが怖くなった (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

【失意の斎藤佑樹を救った吉井理人の言葉】

 一軍でローテーションを守って投げていると、どうしても調子の波が出てきます。この前は悪かったのに次はいいピッチングができたとか、逆にいいピッチングをしたその次がおかしくなるとか......そんな時期、僕はまた吉井さんの言葉に救われます。

 いい時と悪い時がハッキリしていた頃、吉井さんが僕のところにフラッと寄ってきて、「佑ちゃん、たいしたもんやで」と言うんです。僕は何を褒められたのかわからずにいたら、吉井さんが「普通は3週間がいいとこやからな」と続けます。何が3週間なのかなと思ったら、吉井さんはその意図をこう説明してくれました。

「ピッチャーの調子の波ってな、3週間のサイクルやと思うねん。どんなにいいピッチャーでも、いい調子を持続するのは3週間がいいところや。でも佑ちゃん、開幕してからずっと調子落ちへんもんな。だから、たいしたもんなんや」

 その言葉を聞いて、うれしくなりました。吉井さんの言葉って不思議な説得力があるんですよね。5月の頭(4日)に4勝目を挙げて以来、函館でメッタ打ちを喰らって、広島で好投しながら野村に投げ負けて、ドラゴンズにノックアウトされて、5月末(31日)の神宮でのスワローズ戦では早々に交代を告げられました。勝てない1カ月にモヤモヤしていた時だからこそ、そういう言葉に励まされました。

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 ローテーションを守るピッチャーにとっての1カ月は"5日"にすぎない。それがプロのローテーションを担う先発ピッチャーの難しさでもある。2012年6月6日、斎藤は1カ月ぶりの勝利を目指して札幌ドームのマウンドへ上がった。相手はカープ、投げ合うのはふたたび野村。そしてこの日は斎藤の24歳の誕生日だった。1カ月ぶりの勝利をつかんだ斎藤は、お立ち台であの"言葉"を口にする──。

(次回へ続く)

著者プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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