栗山英樹監督から手紙で告げられた開幕投手に斎藤佑樹は涙 「僕の不安な気持ちと監督の覚悟が込められていて...」 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Sankei Visual

 2012年の開幕戦は、札幌ドームでのライオンズ戦です。初球についてはツルさん(キャッチャーの鶴岡慎也)とずっと話をしてきて、「(ライオンズの1番バッター、エステバン・)ヘルマンは初球を打ってくる、打つのは真ん中からアウトコースの球」というデータがあったので、「インコースへ投げて、踏み込ませないように、それでも振ってくれば詰まって内野ゴロが最高だね」ということでまとまっていました。だから初球はインコースへフォーシームを投げたのを覚えています。

 前日に比べれば、当日は緊張しませんでした。初球、インコースへ真っすぐを投げることを決めて、そこに集中していたからなのかもしれません。初球、力んだせいか少し高く浮いてしまいましたが、きっちりとインコースへ投げて、うまくヘルマンの足を動かすことができました。その結果、最後もインローの真っすぐ(140キロ)でヘルマンを見逃し三振。2番の栗山(巧)さんをサードゴロに打ちとって、ツーアウトから3番の中島(裕之)さん、4番の中村(剛也)さんを歩かせてしまいます。

 つづく5番の嶋(重宣)さんに、大きなファウルを打たれました。あの打球、マウンドから見ていたら完璧なホームランに見えたんです。ライトのポール真上で、当時、もしリクエスト制度があったらどうなっていたかわからない打球だったと今でも思います。もしあれがホームランだったら初回の3失点ですから、当然、いい流れになるはずがなかった。ファウルの判定を聞いて、心底、ホッとしました。結局、嶋さんをセカンドゴロに打ちとって初回をゼロに抑えると、2回以降はリズムに乗ることができました。徹底してストライクゾーンで勝負できたことが、いい結果につながったんだと思います。

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 マックス145キロのストレートを含む110球を投げて、被安打4、失点1。開幕戦でプロ初の完投勝利を成し遂げた斎藤は、鶴岡に頭を叩かれ、吉井理人コーチにハグされ、栗山監督に肩を叩かれて快挙を労われた。そして試合後のお立ち台で斎藤は「今は持ってるのではなく、背負ってます」と、またも大胆なフレーズを口にしたのである。

(次回へ続く)

プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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