ダルビッシュ有の「野球に走り込みは必要ない」理論をフィジカルトレーナーはどう考えるか 日米では「身体の動かし方」の考えはまったく違う (3ページ目)

  • Text by Sportiva
  • photo by USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

【指導者の「こうするべきだ!」のみが正解じゃない】

――MLBでは個性的なフォームで投げる投手が多いですが、それも自分の身体の動かし方をわかっているからできることなのでしょうか。

吉原:そうですね。投球フォームはさまざまですが、投手は基本的にリラックスした状態から投げ始めます。日本では「リラックス=力を抜くこと」と考えられていますが、アメリカでは「リラックス=力を入れないこと」という考え方になります。

 この意味合いの違いは大きいと思います。「力を抜く」ということは、力が入っている状態が前提にあって、そこから力を抜いていくということ。アメリカでのリラックスは、「そもそも力が入っていない状態」が普通なので、必要な一瞬に力を入れるだけ。MLBの選手が、瞬発力を発揮する瞬間だけガッと力を入れ、身体を連動させる能力が高いのもそのためだと思います。 

――吉原さんが考える、理想の投球練習を教えてください。

吉原:単純に、大谷翔平選手やダルビッシュ投手など、好きな投手の投げ方をマネしてみるのもいいと思います。マネができるということは、自分の目で見て頭で考え、神経を使って身体を動かすことができるということ。そうして試していくうちに新たな気づきがあると思うので、自分に合う投球フォームが自然に見つかると思います。身体のコントロール能力が高まると、指導者から技術指導を受けたことを身につけられるスピードは向上すると思います。

――打撃練習については、どう考えますか?

吉原:日本では、小さい時から「脇を締めろ」「バットを短く持ってコンパクトに振ろう」と指導を受けてきた選手が多いと思います。しかし、小学生の時にフォームを固めても、筋力がないので身体をコントロールできません。身体も神経も成長段階にあるので、型にはめるのではなく、自由に思いきり振らせたほうがいい。何度もバットを振っているうちに、どうすればバットに力が伝わってボールが飛ぶのかを自分の力で感じ取れるようになるはずです。

――吉原さんの考えは、野球以外のスポーツにも通じそうですね。

吉原:私は野球以外にも、サッカー・バスケットボール・陸上・スピードスケートなど、あらゆるスポーツのトップアスリートたちにトレーニング指導をしてきました。今は変わってきていると思いますが、日本では指導者が「こうするべきだ!」と言うと、それのみが正解として考えられてしまう傾向にあると感じていました。

 私はあえて別の角度からも考えるようにしていますし、それによって有効なトレーニング法のヒントが見出せることが何度もありました。より多くの経験を積みながら、選手にさまざまなトレーニングの方法を示して、自分に合うモノを発見できるようにすることが使命だと考えています。

【プロフィール】
吉原 剛(よしはら・たけし) 

1973年福岡県生まれ。九州共立大学八幡西高等学校(現自由ヶ丘高等学校)卒。会社員を経て渡米し「ムーブメント」トレーニングを学ぶ。帰国後、身体の動きの改善を中心とした処方トレーニングを提唱し、独自のライセンス制度を発行している。さまざまな日本のプロアスリートの指導のほか、台湾プロ野球選手のパーソナルトレーニングも担当。アスリートワイズパフォーマンス代表。ムーブメントワークアウト協会代表理事。日本スポーツ協会スポーツプログラマー。

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