「そのシュート、いいね」松坂大輔の言葉に「いける」 育成5位→新人王の西武・水上由伸が大下剋上を果たせたわけ (3ページ目)

  • 寺下友徳●取材・文 text by Terashita Tomonori
  • 佐藤友美●撮影 photo by Sato Tomomi

●「そのシュート、いいね」松坂大輔の言葉に自信

 2021年2月、背番号「128」を背負って、高知でのB班キャンプからプロ野球生活をスタートさせた水上。

 彼には新人合同自主トレーニングの時から「支配下登録はすぐにいける」と、密かな自信が芽生えていた。

 根拠もあった。この年が現役最後のシーズンとなった松坂大輔からはこんなことを言われた。

「そのシュート、いいね」

 水上のシュートは大学4年春を迎える前に習得したもの。ただし、大学では「シュートを捕れる捕手がいない」という理由で封印。最終シーズンはスライダー中心に変化球を組み立てていた。

「ピッチングの組み立てが広がるし、決め球としても使える」と松坂からシュートを評価され、自信を深めた。

この記事に関連する写真を見る B班のオープン戦でシュートも用いたピッチングをすると、今年のWBC優勝メンバーの山川穂高からも「すぐに支配下いけるよ」と賞賛された。

「僕はシュートボーラーです」

 水上は満面の笑みでそう言った。

 となれば、残るハードルはプロで必要な精神力。二軍では打たれながらも内角攻めもいとわないスタイルを貫徹した。

「上の舞台に立っても負けないように、強い気持ちだけは最初から持とうとしていました」

 そのメンタルが中継ぎとしての登板機会につながり、同年5月、ひとつの節目を迎えた。

「渡辺(久信)GMからも『すごく性格が上(うえ=一軍)向きだ』と言っていただきました」

 支配下登録が決定。背番号も「69」に変わると、6月10日に一軍昇格。6月11日には中日との交流戦でついに一軍デビューを果たした。

「自分が思い描いていた野球をできていた。まったく緊張することなく投げられたし、ホールドをとる場面に入った時には相手打者の目のギラつきが全然違った。気合いが入るし、本当に面白かったです」

 結果、プロ1年目は29試合登板。

「積極的に使ってくれたし、ありがたかったです」

 水上は当時の辻発彦監督への感謝の念を抱き、2年目の目標をこう公言していた。

「新人王をとります」

後編<育成出身新人王・水上由伸(西武)「2年連続タイトル獲得、そして推定年俸1億円...」 60試合以上登板で大暴れを誓う3年目>

【プロフィール】
水上由伸 みずかみ・よしのぶ 
1998年、長野県生まれ。山梨・帝京第三高校、香川・四国学院大学を経て2020年ドラフト会議で埼玉西武ライオンズから育成ドラフト5位で指名。2021年5月に支配下登録されると、同年6月に一軍初昇格。1年目は一軍で29試合に登板し、0勝1敗4ホールド・防御率2.33を記録。2年目の2022年は60試合に登板し4勝4敗31ホールド1セーブ・防御率1.77をマーク。最優秀中継ぎ投手、新人王に輝いた。

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