髙津監督がもらした「あの子の成長もここで止まってしまうのかな...」から2年 高橋奎二が歩む大エースへの道
3月6日、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の日本代表チームは、阪神と強化試合を行ない快勝。高橋奎二(ヤクルト)は、先発した山本由伸(オリックス)のあとの2番手で登板し、3回を2安打無失点、4奪三振の好投を見せた。WBC球の不安を感じさせない本来の力強いピッチングで、本番に向けて弾みをつけた。
チームの先発左腕を送り出した髙津臣吾監督は、「結果もそうですが、内容もよかったので安心しました」と安堵の表情を浮かべた。
3月6日の阪神との強化試合で好投した日本代表の高橋奎二この記事に関連する写真を見る
【一番心配しているのは奎二】
ヤクルト春季キャンプ(沖縄・浦添)中の2月16日の朝、室内練習場では髙津監督をはじめたとした首脳陣、選手、チームスタッフが大きな輪をつくっていた。この日、宮崎で行なわれる日本代表の強化合宿に参加する中村悠平、山田哲人、村上宗隆、そして高橋を送り出すために全員が集まった。
4人の選手が次々とあいさつをするなか、高橋は「世界一を獲ってきます。自分のピッチングができるように頑張ります」と決意を語った。そして4人が大きな拍手で送り出されると、いつものスケジュールに戻り、3連覇へ向けた練習が始まったのだった。
髙津監督はチームのウォーミングアップを眺めながら、「今回、チームから4人の選手が選ばれましたが、一番心配しているのは奎二です」と語った。
「彼は野球の器用さはありますけど、環境の変化だったり、ちょっと違ったことをする時に不器用さがあるんです。でも、そこにうまく馴染んだ時は大きな力を発揮しますし、大舞台でもすごいピッチングができる。とにかく早く馴染んで、侍ジャパンに貢献してほしいですね」
若手選手の育成を命題とする髙津監督にとって、高橋は苦楽をともにしてきた「育成第1号選手」といっても過言でない。
「僕が指導者になってから、今いる選手のなかで間違いなく一番見てきたピッチャーです。入団1年目、2年目のケガで投げられない時から、ようやくファームで投げ始めた時、もちろん今の一軍でもそうなんですけど、ずっと見続けてきたのが奎二です。ここまでの育成がうまくいったかは別として、ここまでくることはできた。1試合を任せられるようになり、去年は8勝することができた。そして今回、WBCの日本代表にも選ばれた。そのことを考えると、これまでにいろいろな、それを失敗とは言わないですけど、彼も僕もいろんなことを経験して、ここまでたどり着いたのかな」
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プロフィール
島村誠也 (しまむら・せいや)
1967年生まれ。21歳の時に『週刊プレイボーイ』編集部のフリーライター見習いに。1991年に映画『フィールド・オブ・ドリームス』の舞台となった野球場を取材。原作者W・P・キンセラ氏(故人)の言葉「野球場のホームプレートに立ってファウルラインを永遠に延長していくと、世界のほとんどが入ってしまう。そんな神話的レベルの虚構の世界を見せてくれるのが野球なんだ」は宝物となった。以降、2000年代前半まで、メジャーのスプリングトレーニング、公式戦、オールスター、ワールドシリーズを現地取材。現在は『web Sportiva』でヤクルトを中心に取材を続けている。