元審判員が語るプロ野球の裏話。「ブラウン監督の退場劇の真実」「メイクドラマの張本人は?」 (2ページ目)

  • 水道博●文 text by Suido Hiroshi
  • photo by Sankei Visual

「もう夜10時ですよ。明日デーゲームで、朝9時に球場入りなのに......」
「ピッチャーがあれだけストライク入らなかったら長くなるわな。寝る時間なくなるよ」

 同じ審判員からこんな愚痴が聞こえてくることもあります。とくに地方開催だと、意外に早く飲食店が閉まってしまい、お目当ての店に行けなかったということは何度もあります。

 試合が長くなる一番の要因は、ランナーが出た時のピッチャーの間合いです。「ランナーがいない時は15秒以内に投げる」というルールがあって、二塁塁審が計っているのですが、ランナーが出たら制限はなく自由に使えるため、頻繁に出塁する試合は長くなる。

 サッカーのように試合時間が決まっていると、ファンはその後の予定を立てやすいですが、野球のように時間制限がないスポーツはそれができない。ただ、奇跡の大逆転や筋書きのないストーリーが生まれる可能性はありますが......。とはいえ、スポーツビジネス的に言えば、番組編成やCMの観点から野球は地上波には向いていないと思います。

「メイクドラマ」は私の責任!?

 長い審判生活のなかで、今でも忘れることができないのが、審判5年目の1996年8月29日、広島市民球場で行なわれた広島と巨人の試合です。その試合、球審だった私は巨人の仁志敏久選手の打席でツーストライク後の外角低めの球を「ボール」と判定しました。

(ストライクでもよかったかな......)

 そう思ってしまうほど、際どいボールでした。もし、ストライクとコールしていれば見逃し三振。しかし結果は、サードゴロがイレギュラーバウンドして、広島の江藤智選手の顔面を直撃。眼窩底骨折の重傷を負いました。

 試合後、塁審を務めていた先輩に叱咤と慰めの言葉をかけられました。

「低く見えたんか? あれがボールではちょっときついよな。でもな、そういうのがこの仕事。明日も仕事は続くんだぞ」

 広島の三村敏之監督(当時)は、若手審判によく「頑張れよ」とすごく優しく声をかけてくれる温厚な人でした。しかしあの一件に関しては、広島弁ですごまれました。

「あの1球、おまえがちゃんとストライクと言っとけば、江藤はケガせんで済んだんじゃ。そういう仕事をしてるんだぞ、あんたらは。肝に銘じておけ!」

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