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鍬原拓也が「クビも覚悟した」育成契約。菅野智之の「点ではなく線で」の助言に新発見があった (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Sankei Visual

 鍬原と言えば大学時代から「クワボール」と呼ばれたシンカーを得意としていたが、今は投球頻度が減っている。カットボールにとって代わられたのかと思いきや、鍬原は「シンカーも変わらず自信がありますよ」と不敵に笑う。

「今はバッターも『シンカーがある』と考えてくれているから真っすぐに差し込まれたり、空振りがとれたりしていると思います。でも、シーズンは長いので」

 奥の手を残しながらも、今の鍬原には一軍の強打者を抑え込む術がある。4月24日現在、10試合に登板して7ホールド。防御率1.00と抜群の安定感を見せている。

女手一つで育ててくれた母への感謝

 気を抜けない日々をすごしながらも、鍬原にとってうれしい変化もあった。母・佐代子さんと「いつ試合を見に行こうか?」という会話ができるようになったことだ。

「今まではいつまで一軍にいられるかわからなかったので。先発した試合を見に来てもらったこともありましたけど、たぶん冷や冷やしていたんでしょうね」

 大学時代の鍬原は佐代子さんの好きな色である紫のグラブを使い、平裏(グラブの手のひらを入れる部分)に「親孝行」と刺繍を入れていた。女手一つで鍬原と妹を育て、思春期特有の若気の至りで迷惑をかけてきた母への感謝の思いを忘れたことはない。

 そんな佐代子さんにようやく見せられる、晴れ姿。今季の観戦はまだ実現していないが、鍬原は「1イニングをしっかり抑えて、堂々としている姿を見せたい」と意気込む。

 まだシーズンは始まったばかり。今季を乗りきるための課題を聞くと、鍬原は故障に苦しんだ投手らしく慎重な言葉を口にした。

「まずはケガをしないこと。1年間コンディショニングを大事にしていきたいです」

 そして鍬原は一拍置いて、こう言葉を紡いだ。

「大事なところを任されてもしっかりと結果を残して、ベンチからの信頼を勝ちとりたいです」

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