館山昌平「俺はケガがなかったら...と言い訳する人をたくさん見てきた」。現代の投手育成法とケガの予防を考える (3ページ目)

  • 中島大輔●文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Koike Yoshihiro

「僕はボールの重さを感じないで投げる方法を探していました。ボールの重さを感じないのは、100%の効率で力が伝わるようにボールを乗せられた時だと思います。ちょっとでもロスがあったら、ミスが起こりやすい。それを感覚でやっていたけど、ラプソードを使えば『これが100パーセントの回転効率』とわかります。(ヒジの)関節にかかる負担も少なくなるし、そうやってフォームを固めていい球を投げられるようになれば、早く復帰できたと思うんです」

パフォーマンス向上の代償

 回転効率は近年、投手にとってキーワードになっている。日本の報道では「回転数」ばかり重視される傾向にあるが、「回転軸」もポイントだ。腕を振る角度とボールの回転軸が同方向になれば「回転効率」が高まり、この数値が100%に近づいた時、いわゆる"回転がきれい"なストレートになる。

 館山が楽天の二軍投手コーチだった頃、上記の観点から取り組んで飛躍の兆しを見せた投手がいた。2018年育成1位で八千代松陰高校から入団した清宮虎多朗だ。

 最速145キロという触れ込みでプロ入りしたが、当初は制球に苦しみ、球速も133、4キロ程度しか出なかった。そこでラプソードを用いて回転効率を改善すると、清宮は常時150キロを計測するようになった。

 そうして2020年はファーム4試合で防御率0.00の成績を残したが、待っていたのは大きな代償だった。翌年2月、トミー・ジョン手術を受けることになったのである。

「それまで回転効率をロスしていたところから急に指にボールがかかり出し、それによって(右ヒジの靱帯が)耐えられなくなったと思います」

 館山がそう振り返るように、ヒジが出力に耐えられなくなってトミー・ジョン手術に至る選手もいれば、子どもの頃から投球を重ねてきた負担の蓄積による場合もある。中学生が受ける例もあるなど、良くも悪くも一般的になった。

 1974年にアメリカでトミー・ジョンという投手が初めて手術を受けた頃は成功率1%未満とされたが、現在は医療技術やMRIの精度が高まり、90%以上の確率でうまくいくと考えられている。リハビリの例も蓄積されてきた。

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