プロ未経験を武器に無名選手を次々に発掘。「死ぬまでスカウト」を実践した今成泰章氏を偲ぶ (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

「三振をバタバタとる投手はたしかにすごいし、魅力的です。でも、派手じゃなくても、タイミングを外しながら丁寧に投げてアウトを重ねる投手もすごいと思っています。そういう意味じゃ、打ちにくいっていうのも大きな武器。武田なんて、130キロも出なかったですからね」

 そんな今成スカウトだが、5、6年前あたりはしばらく姿を見かけないと思っていたら、前立腺ガンの治療中だと聞いた。それでも持ち前の生命力で完全復帰。時折、現場で会うと、彼のほうから声をかけてきてくれて、以前よりもちょっと丸くなったような気がした。無理しないようにと告げると、「もう無理しないと、何もできなくなっちゃったよ(笑)」と珍しく冗談を言ってきたが、独特の鋭い眼光はちっとも変わっていなかった。

 じつは、今成スカウトの本を出版したいと思っていた。本人も乗り気になってくれて、タイトルも『死ぬまでスカウト』と勝手に決めていた。それを伝えると、「おーそれよ。オレは死んでもスカウトだから。スカウトしかやったことないんだから」と喜んでくれた。

 結果的に企画は通らず、出版は実現しなかった。今にして思えば、それが残念でならない。

 23歳でスカウトになって、阪神の頃は人間関係の大変さを嫌というほど味わったという。それでも1年のブランクもなく、最後までスカウトであり続けた。まさに「死ぬまでスカウト」を実践した。

 劇症型溶血性レンサ球菌感染症という、聞きなれない恐ろしげな病名で、あっという間にこの世を去ってしまった。きっと、本人がいま頃いちばんビックリしているのではないか......。

 プロ経験がなかったことを武器に、次々と名選手を探し出した功績は計り知れない。スカウトの醍醐味を教えてくれた方だった。

 あらためて今成スカウトのご冥福をお祈りします。合掌。

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