無名校出身のドラフト最下位指名投手が手にした1800万円の重み。楽天・西口直人の「下剋上物語」 (2ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Kyodo News

何気ない会話から生まれた必殺球

 10位とはいえ、西口は入団当初からポテンシャルを評価されたピッチャーだった。

 1年目のシーズン開幕早々に一軍の練習に呼ばれ、2年目にはプロ初登板初先発も果たしている。昨年もファーム日本選手権で先発を任されチームの期待値も高かったが、一軍での経験が2年目の1試合のみだったのは、故障などの不運も重なったからだった。

 そして、昨シーズン。開幕から中継ぎとして、ショート、ロング問わずマウンドで右腕を振り、能力の高さを示した一方で、西口は一軍の「壁」を感じていた。

 持ち味の150キロのストレートで空振りがとれない。2年目の2018年に当時オリックスの金子千尋から教わった、ウイニングショットのチェンジアップでも簡単に打ちとることができなかった。前半戦13試合で防御率5.54。数字がその苦悩を物語っていた。

 手詰まりからの脱却。それは、ブルペンでの何気ない会話がきっかけだったという。

 7月24日。この日、楽天はホームの楽天生命パーク宮城で、東京五輪を間近に控えた侍ジャパンと強化試合を行なっていた。

 マウンドで侍ジャパンの4番手・千賀滉大が投げていた。ブルペンで待機中だった西口は、ソフトバンクのエースが投じる"お化けフォーク"に対する疑問を、隣にいた福井優也に純粋にぶつけていた。

「千賀さんのフォークって、どうやってあんなに落としてるんですかね?」

「おまえ、どんな感じで投げてんの?」

 福井に聞かれた西口は、身振り手振りで自分の投げ方を説明する。

 イメージとしては、手首を立てながら、人差し指と中指で挟んだボールを押し込むようにリリースする──「それだと、全然落ちないんですよ」と西口がかぶりを振ると、福井に「だろうな」と言わんばかりに返された。

「それだと、手首が負けちゃうだろ」

 2本の指のみでボールを支えているにもかかわらず手首を立てたままだと、リリースの負荷に耐えられないというわけだ。そこで西口が福井から教わったのが、「パンチするように手首を真横から出す」だった。

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