野村克也が好きだった「超二流」のヤクルトV戦士。土橋勝征が「怒られているのを見たことがない」 (3ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi
  • photo by Sankei Visual

【チームに不可欠な「超二流」として存在感を発揮】

――最終的に土橋さんはプロ生活20年、通算1121安打、打率.266という成績でした。タイトルを獲ったわけでもないし、名球会入りしたわけでもないけれど、長く現役生活を送り、ヤクルト黄金時代には欠かせない"いぶし銀"な存在でした。あらためて、八重樫さんは土橋さんのことをどのように振り返りますか?

八重樫 野村さんが土橋のことを高く評価していたのは、戦力として頼りになるということはもちろんだけど、彼の野球に取り組む姿勢を他の選手、とくに若手選手にも見せたかったというのが大きいと思うんです。

――他の選手への好影響という部分も考慮に入れていたということですね。

八重樫 実際に、野村さんは「超一流になるのはごく限られた者だけだけど、超二流になら頑張ればなれるんだ」ということはよく言っていました。まさに土橋のようなタイプが超二流でしたよね。時には一流以上の活躍でチームに貢献することもできる。野村さんも、「超一流は黙っていても活躍する。でも、超二流は鍛えがい、教えがいがある」ということを言っていましたよ。それは後の宮本慎也にも受け継がれていると思いますね。

――現在は二軍で若手の指導に当たっています。かつての土橋さんのような「超二流の名脇役」の誕生を心待ちにしたいですね。

八重樫 入団当時の土橋はまったく笑わない男でした。あそこまで暗い男は見たことがないほどでした(笑)。でも、最近は厳しいだけの指導ではなく、あの土橋でさえもニコッと笑いながら指導しているところを見たことがあります。それは球団からの指示なのか、本人の考えなのかはわからないけど、時代に合わせた指導を採り入れているんだと思います。

――かつて水谷新太郎コーチに徹底的に鍛えられて土橋さんがレギュラーに定着していったように、今度は土橋さんに鍛えられた長岡秀樹選手、武岡龍世選手といった期待の若手が伸びていくといいですね。

八重樫 指導者となっても、現役時代のように黙々と努力するタイプだから、きっといい選手を育ててくれると思いますよ。そして、後には一軍の指導者として、神宮球場でその姿を見たいものですね。

(第91回につづく>>)

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