盗塁でバチバチの心理戦。神の足・
鈴木尚広がヤバいと思った投手&捕手 (3ページ目)
── "対バッテリー"という部分で、谷繁さんはとくに意識する存在でしたか。
「自分としては、"ライバル"という設定をしていました。谷繁さんから盗塁を決めると自信になるし、周りの評価も変わってくる。だから、僕にとって谷繁さんは自分の価値を上げてくれる人。そんな思いでしたね」
── 盗塁阻止率が高い捕手から走ると、走者の価値も高まると。
「そういうことです。盗塁を仕掛けて勝負に勝つことによって、相手捕手に『またあいつが出てくるな』とプレッシャーをかけられる。それでも谷繁さんの表情は変わらないと思いますけど、頭のなかを"鈴木"というものに支配させていく。実際、7、8回になって先頭打者が塁に出ると、ベンチを見る捕手が多いですからね」
── 僅差の試合終盤に出る代走は、そうやって勝敗に影響を及ぼす要因になるのですね。
「自分自身がチームの駒として、その位置までたどり着くのが大変でした。一軍に出始めた頃、意識したのはヤクルトの古田(敦也)さんでした」
── 捕手それぞれで肩の強さ、動きの速さ、走者への警戒心など違いがあると思います。盗塁阻止に優れた捕手には、どんな特徴がありますか。
「経験値からくる配球のつくり方ですね。あとは、ランナー心理をよくわかっている。たぶん、一つひとつの動きをよく見ているんですね。ランナーがリードしているなかで、少しピクッとしたとか、体重が二塁方向にかかったとか、クセみたいなものを見ている。こっちの走りそうな雰囲気とかも見ていて、逆手にとってきますからね。
配球でいうと、一般的にカウントが早い段階では速い系の球種が多いんです。それが初球から、急にカーブで入ったりする。そうするとこっちは、"スタートを切っておけばよかった"と思っちゃうんですよね」
── 初球がカーブだと、2球目は速い球が来るかもしれない......そう考えると、さらにスタートが切りにくくなるのですか。
「真っすぐかなと思ったら、フォークが来たりします。そうすると、僕も迷わされる。古田さんや谷繁さんは、ランナーの雰囲気、間合いから感じ取れるものがすごく多い。常に見ています。
それにふたりとも、キャッチングとスローイングの正確性にも絶対的な自信があるように感じます。谷繁さんの場合、いかにランナーのスタートを遅らせるか。だから中日のピッチャーにクイックをさせるし、配球でランナーを迷わせてくる。迷いというエッセンスをこっちに与えてくるんです。そういう心理戦を、見えないところでバチバチやっていました」
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