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日本シリーズ史上初の本塁打直前。
杉浦享は「イヤだな」と感じていた (2ページ目)

  • 長谷川晶一●取材・文 text by Hasegawa Shoichi

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 グラウンドからは歓声が聞こえる。この回の先頭、秦真司がレフトにツーベースヒットを放ち、ライトスタンドのボルテージが一気に上がった。ここで杉浦がバットを持ったままグラウンドに登場。続く、八番・笘篠賢治は敬遠で一塁に進み、無死一、二塁のチャンスを迎えた。

 九番・岡林洋一のところで野村克也監督が動いた。好投する岡林に代わって、代打・角富士夫の名前が告げられた。角が登場すると、すかさず三塁側ベンチから西武・森祇晶監督が自らマウンドへ。両軍のベンチワークが慌ただしくなった。

 12回をひとりで投げ抜いた岡林は161球を投じていた。しかし、力投した岡林の代わりに登場したベテランの角は送りバントを決めることができず、サードへのファールフライに倒れる。それでも一番・飯田哲也がショートへの内野安打で出塁し、一死満塁の大チャンスを作り出した。

 野村監督がゆっくりと立ち上がり、主審に代打を告げた。ここで登場したのが杉浦だった。

 盛り上がる神宮球場。勝敗のカギを握る場面で、杉浦は何を考えていたのか。真っ白なあごヒゲをたくわえた杉浦が「あの打席」を振り返る。

「最初は、『えっ、オレ?』という思いでした。同時に、『一番目立つ場面じゃねぇかよ』とも思いましたね。決して『よっしゃ、やってやる!』と意気込んでいたわけじゃない。むしろ『イヤだな』という思いのほうが強かった。体は緊張でカチカチでしたから......」

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