「なんであんなに叩かれてるの?」と心配されるDeNA倉本寿彦の苦闘 (4ページ目)

  • 村瀬秀信●取材・文 text by Murase Hidenobu


 野球選手として芯の部分は、頑として譲れないものはある。その一方で、倉本はプロ入りしてからも、自分のスタイルを変えながらキャリアを重ねてきている。ルーキー時代、かつて門田博光に見初められた長打を狙う打撃を捨てることも、セ・リーグの9番という未知の打順も。そして、大好きで、楽しくて、誇らしかったショートからのポジション変更も。「試合に出たい」という大義の前に、自分の姿を変えながらここまできた。

「もう後がない」と思ったことは一度や二度じゃない。どんな場面でも心を平らに、前向きに。小さな石をひとつずつ積み上げてきた力を発揮できれば、最後には絶対に勝てる。追い込まれた土壇場からでも挫(くじ)けない信念は、下から這い上がってきた者の強みだった。

* * *

「ねえ、なんで倉本はインターネットであんなに執拗に叩かれているの?」

 ベイスターズのあるコーチに聞かれたことがある。彼だけじゃない。ここ数年で、同じように心配する人の声を幾度となく聞いた。

 17年頃からだったろうか。ネット上で倉本の守備に対する批判の声が噴出し、それは日増しに大きくなっていった。はじめこそ倉本に好意的でない人たちの中傷だったのかもしれない。だがいつしか普通のファンの間でさえ、さしたる悪気もないまま"ネタ"として面白おかしく語られるような事態になっていた。

「でも、あいつはメンタルが強いからね。大丈夫だと思うけど......」

 チームメイトたちの心配の後には、決まってそういう言葉が続いた。確かに表情を変えず淡々とプレーしている倉本を見ていると、何があっても動じないような空気を漂わせている。そのメンタル強者然とした佇まいが倉本の武器になっているともいえたが、一方で「覇気がない」などと勘違いされてしまう弊害も持ち合わせていた。

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