「日本の野球ってすげぇんだぜ」宮本和知は五輪での金メダルを自信にした (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Jiji photo

 しかし宮本は5番のコリー・スナイダー、6番のジョン・マルザーノに立て続けにフォアボールを与え、満塁となったところで、吉田がマウンドに上がる。ここで吉田がマックを三振に斬って取り、日本はこの試合、最大のピンチを切り抜けた。

 その後、日本には広澤の3ランホームランが飛び出す。9回、吉田もスナイダーに2ランホームランを打たれたものの、結局、6-3で逃げ切り、強敵、アメリカを下した。日本がロサンゼルス五輪で金メダルを獲得したのである。宮本はこう言った。

「金メダルを獲れたのは......急遽、召集されて行くことになったからかな(笑)。緊張する時間もなかったし、事の重大さもわからないうちに終わっちゃったって感じでしたからね。でも、大事だと思ったのは、やっぱり日本の野球を貫くということなんじゃないですか。細かい、足を生かした野球。最近は日本人にもパワーが備わってきていますけど、それでも2-2から突然、ピッチャーを代えたりすれば、相手は『おっ、何をやってくるんだ』と思うじゃないですか。

一球一球、野球を動かしながら、心理戦を仕掛けていくところが日本の持ち味だと思うんです。僕はあの時、オリンピックで金メダルを獲れたことによって、日本の野球が世界のトップレベルにあるんだということを、ファンに伝えられたことが何よりもうれしかった。日本の野球って、すげぇんだぜって......」

 出発の空港には見送ってくれる人はほとんどいなかったのに、帰国したときには凄まじい数のフラッシュに迎えられた。金メダルを獲って世界一になったことで、宮本は自らの野球人生に自信を持つことができたのだと言った。

「帰りの飛行機のなかで話したんです。『オレたち、世界一になったんだから、プロ野球選手になれるんじゃないの』って......アマチュアで頂点を獲ったんだから次はプロだよな、みんな、プロの世界で会おうぜ、みたいな、そんなノリでした」

 実際、ロサンゼルス五輪の全日本メンバー20名のうち、16名がプロの世界へ進んだ。そして今のところ、この金メダルは、日本の野球界がオリンピックで獲った、唯一の金メダルだ。オリンピックの金メダルを手にした日本の野球人は、この20人だけなのである。

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