平石洋介が振り返りたくない高校時代。松坂の存在がその想いを変えた (2ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Jiji Photo

 この回の先頭打者だった平石に焦りはなかった。1ストライクからの2球目、鋭く曲がるスライダーがストライクゾーンを通過した。平石は打席を外し、松坂を見ながら笑っていた。

「それははっきり覚えています。『いいボール投げるなぁ』ってニヤッとしたんです。あの打席は『オレ次第やろうな』と思っていたので、どんな形であれ出塁すれば追いつくチャンスがあると。冷静だったというか、追い込まれても余裕がありました」

 2ストライクから2球続けてストレートが外角に大きく外れた。そして5球目も外角高めのストレートだった。「ファウルになってくれたら......」とコンパクトに振った打球は、レフトの前にポトリと落ちた。

 次打者・本橋伸一郎の犠打で二塁へ進むも、4番の古畑和彦は三振。ゲームセットまであと1アウトとなり、平石は動いた。二塁塁審にタイムを要求し、スパイクの紐を結び始めたのだ。だがこの時、じつは紐はほどけていなかった。あくまで"間(ま)"をつくるための時間稼ぎだった。

「意図的にやりました。高野連の方が聞いたら怒るでしょうけど、古畑の三振で球場の雰囲気がPLにとっては嫌な空気になってきたので、『間をおこう』と思ったのは事実です。それも次のバッターの大西が打ってくれたから、こうして注目されただけなんですけどね」

 二死二塁から5番の大西が三遊間を破り、平石が生還。試合はまたしても振り出しに戻った。

 延長での一進一退の攻防。チームのなかには「いい試合をしている」「このままずっと試合を続けていたい」と、勝敗を度外視した感情を持ちはじめる選手がいたが、平石は「負けるわけがない!」と信じて疑わなかった。延長16回表に勝ち越されてもなお、「大丈夫や! 追いつける」とチームを鼓舞し、実際に試合を振り出しに戻した。

 だが、試合の流れのとらえ方、野球観の相違......平石がその難しさを知ったのが17回表だった。二死からショートゴロを捕球した本橋が一塁へ悪送球してしまう。悪送球したボールがフェンス跳ね返ったため、二塁への進塁は防げたが、二死ながら勝ち越しのランナーを許してしまった。この時、エースの上重聡は「二塁に進まれなくてよかった」とブラスにとらえていた。だからこそ、早くこのイニングを終わらせたいと考えていた。

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