2019.07.05

秋山翔吾「書かれると困る」を解禁。
打率を急上昇させた打撃理論

  • 中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke
  • photo by Jiji Photo

 梅雨前線が埼玉県所沢市に小雨を降らせた6月29日、メットライフドームの駐車場で「じゃあ!」と言って愛車に乗り込んだ秋山翔吾の表情は、1カ月前とまるで異なるものになっていた。

「今日はランナーありの場面でヒットが出ましたけど、もっと緊迫した場面で金子(侑司)や木村(文紀)、愛斗がランナーという条件だったら、相手ピッチャーのクイックが厳しくなるので、打席の自分は今日よりもっと苦しい間合いの取り方になるんでしょうね」

 苦しい想定の話をしているはずなのに、表情に晴れ間が広がったのだ。

5月に入ってからヒットを量産するようになった西武の秋山翔吾 実は1カ月前の5月26日、月間打率4割と打ちまくっていた男は、ある”秘密”を明かしていた。

「書いて(メディアに)出されると、相手に対応されるので困るんですけど、本当のことを言うと、今、クイックに間に合わない打ち方なんですよ、たぶん」

 今季は開幕から3番を任され、3・4月の打率は.232。それが定位置の1番に戻った5月は打率.402と打ちまくって、月間MVPを受賞した。

 3番で打てなかったのが、1番に戻ったら打ち始めたのは、なぜか――。

 当時、多くの番記者が探した答えのヒントは、得点園打率に隠されている。

 わかりやすくするために、「打率/得点圏打率」を並べよう。3・4月は「.232/.179」、5月は「.402/.286」、6月は「.337/.353」(『データで楽しむプロ野球』参照)。

 注目してほしいのは、5月から6月の変化だ。6月になって月間打率が落ちたのに対し、得点圏打率はアップしている。5月とは違う打ち方に取り組んだことで打率が下がった一方、得点圏で数字が残るようになったのだ。

 不調だった4月、「今は右にしかヒットを打てない。ピッチャーのボールに力を加えないと打てない」と秋山は話していた。広角に打つことで毎年安打量産してきた男だけに、何が起きているのか不思議だった。

「その時は間も取れてないし、相手ピッチャーの投げているボールをヒットゾーンに運ぶための自分のスイングの種類が、自分のなかであまり見えていませんでした。だから、単純に一番力の加えやすい、一二塁間をイメージするしかヒットの手段がないように感じていました」