日本の野球は疑問だらけ。ワニ男パリッシュは人形に怒りをぶつけた (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

 もちろん、うまくいかなければ自分に腹も立つし、そういう闘争心が自分を駆り立ててきたからこそ、野球の世界でほかの人にできないことをやってきたという自負もある。私はトランプでもゴルフでも勝ちたいし、子どもとかけっこしても勝ちたい。

 打てるはずのボールを打てなかった時、自分に腹を立てたそのネガティブな気持ちは、内に溜めておくと、私の心をいつしか侵食してしまう。だからあえて怒りを外へ出して、爆発させるようにしてきた。ラリー君人形(ベンチ裏に常備していた専用のサンドバッグ)にあたるのは、怒りをそこへぶつけて、次のことに取り組むための自分なりの工夫なんだ。

 野球をやっていなかったら? 牛を飼っていたかな。いや、大工だったかもしれないね。父が建築の仕事をしていたし、私も子どもの頃からモノをつくるのが好きだった。フロリダに家があるんだけど、設計から建築まで、自分で全部やったんだ。家を建てるという作業は楽しかった。ただの原っぱから、少しずつ積み上げていく。そのプロセスをすべて写真に撮って、アルバムに貼ってある。折に触れてそのアルバムを見るのが楽しみなんだ。だって、それは、確かに自分が成し遂げた仕事だろう。そのたびに満足感を得られるからね。

 日本に来る決断を下したのは、私にとっては冒険みたいなものだった。野球がなければきっと来ることのなかった国へ来て、知らないものを見ることができる。私はフロリダ州の真ん中、ディズニーワールドから20マイル(約32キロ)のところにある、ヘインズシティという小さな町で生まれて、そこで暮らしていた。もし野球がなければ、ずっとあの町で暮らしていたと思う。私は、家から8時間以上かかるところへ行ったことがなかったのに、今は野球のおかげで地球を半周もしている。野球は私の目を世界へ向けてくれた。野球がなければ、私の世界は小さなものだった。

 ワニ? まさか、ワニを食べると言ったことが日本であんなにセンセーショナルに伝えられるなんて、想像もしていなかったよ。だって、私はフロリダでは毎日、ワニに会っていたからね。フロリダにはたくさんの川、池、沼があるんだ。水辺があれば、そこには必ずワニがいる。ゴルフ場にもいるよ。彼らはグリーンによく寝そべっている。きれいに刈られた芝は、ワニにとって寝心地がいいんだろうね(笑)。

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