2018.11.16

日本一も経験した3人のトライアウト。
彼らを突き動かすものとは…

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • 繁昌良司●写真 photo by Hanjo Ryoji

「全打席三振でもいい。とにかく思いっきり振ってこい!」

 打席に入る前、”闘将”から授けられた言葉を反芻(はんすう)する。

 不振に喘いでいた枡田慎太郎(ますだ・しんたろう/前楽天)に「監督室に来い」という知らせが届いたことがあった。

 恐る恐る監督室の扉を開けると、当時楽天を率いていた星野仙一氏が椅子に座っていた。開口一番「最近、どうしたんや」と言葉をかけられる。枡田なりに不調の要因、打席でのアプローチを説明したが、星野氏は”迷い”があることを見透かした。だからこそ、「思いっきり振れ」というシンプルな言葉で背中を押した。

トライアウトでは2安打を放つなど結果を残した枡田慎太郎 星野氏の激励を受けた枡田は、2012年から台頭。翌2013年には、キャリアハイとなる86試合に出場し、球団創設後初となる日本一に貢献した。得点圏打率.364を記録した勝負強い”生え抜き”の活躍は、杜の都のファンを熱くさせた。しかし、翌年からは、思うような成績が残せないシーズンが続く。

 2014年は極度の打撃不振、2015年は右手の故障にも泣かされた。そして、プロ13年目となる今シーズンは33試合の出場にとどまり、戦力外通告を受けた。それでも、「可能性がある限り、現役を続けたい」と迷わずトライアウト受験を決めた。

 トライアウトで野手に与えられたのは4~5打席。すべての打席で「後悔しないように思いっきり振る」と心に誓って臨んでいた。結果は4打数2安打。第2打席では乾真大(BCリーグ・富山/前巨人)から左越え二塁打を放った。

「中途半端なスイングをしたら悔いが残る。『後悔しないように、しっかり振る』と決めていました。打席に向かうときには、星野監督からかけられた『全部三振でもいい! 振ってこい!』という言葉が常に頭にあった。2つ三振をしましたけど、(第1打席で放った)センター前は手応えがありました。自分らしさは出せたと思います」

 球団創設後2回目のドラフト会議で指名を受け、”勃興期”とも言える状況で入団し、球団の歴史とともに成長してきた。楽天での選手生活については、こう語った。

「入った頃は、まだ球団としても不安定な面がありましたが、育てていただいて、日本一まで経験することができた。すばらしい時間を過ごさせてもらいました」