【イップスの深層】ドラフト解禁年に
無双だった森大輔を襲った突然の悪夢 (2ページ目)
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折しも、森のヒジの違和感についてチーム内で「プロ球団から『痛いと言え』と言われているんじゃないか?」という疑念が広まっていた。そんな事実はなかったが、森は疑念を払拭するため、登板することにした。
小雪が舞う日立のグラウンド。気温は低く、ヒジは重い。そんな悪条件が重なったためか、森はキャッチボールから「何かおかしいな?」と感じていた。キャッチャーに投げるのが怖く感じるのだ。
ブルペンに入る。捕手を座らせて腕を振る。ストライクゾーンに投げている感覚なのに、ショートバウンドする。おかしいと思いながら次の球を投げる。再びショートバウンドする......。その繰り返しだった。約40球の投球練習のほとんどがショートバウンドになった。ベテランのキャッチャーは「わざとやってるんだろ?」と笑った。
試合が始まると、「アドレナリンが出たのだと思う」と本人が振り返るように、全球ショートバウンドということはなかった。6回を投げて1失点。十分な結果に見えるだろう。しかし、森は言う。
「フォアボールを13~14個出したのに、奇跡的に1点で収まったんです」
そして、森は力なく続けた。
「その試合から投げるのが怖くなったんです」
それは怖いもの知らずで投げてきた20歳の青年にとって、初めて抱く感情だった。
「イップス」という言葉は知っていた。社会人2年目に、都市対抗野球大会の補強選手として加入したチームである出来事があった。
左投手の先輩が、「投内連係」と呼ばれる投手と内野手による連係プレーの練習が始まる直前、いつも嘔吐(おうと)していた。「どうしたんですか?」と森が聞くと、先輩は「あれだけはできないんだよ......」と力なく答えた。腑に落ちない森は「あんなの捕って投げればいいじゃないですか。キャッチボールと一緒ですよ!」と言った。
実際に投内連係が始まると、その先輩は送球エラーを繰り返した。「思っていることと起きていることが違うんだよ」と先輩は言った。それが、森が初めて知るイップスだった。
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