鳥越コーチ、熱い指導の原点は「星野さんより100倍怖い」あの人物 (3ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • photo by Kyodo News

 試合で全力疾走しなかったり、ベースカバーに入らなかったり、怠慢プレーがあった選手に対して、島野は激怒した。だが鳥越自身、野球で怒られたことはほとんどなかった。実際、そのときも野球ではなく、若さゆえの生意気な態度が怒りを買った。

 要は、日常生活の"普通のこと"を疎(おろそ)かにしていたのだが、鳥越にすれば疎かにならざるを得ない理由があった。だから、島野に注意された瞬間は理不尽だと感じ、思わず態度に出てしまったのだ。

「若かったな、生意気だったな......と自分で思います。ただ、ここでいちばん言いたいのは、あの人に怒られて納得感があった、ということです。言われた瞬間は感情的になってわからなかったことが、目が血走るほど本気で怒られたとき、『それは言われるよね』『しょうがないよね』って理解できました。

 島野さんは怒ったら怖いけど、よく冗談も言いますし、ものすごくいいおっさん(笑)。指導者はそういうふうにならなきゃダメだと思いましたし、このときの経験は今につながっています」

 思いがけず、島野のやさしさを実感したこともあった。1999年6月、シーズン中のトレードで鳥越のダイエー移籍が決まったときだ。すぐに福岡に行かなければならなかったが、島野から「おい、ちょっと出てこい!」と連絡があった。言われた店に行くと、少人数だったがチームメイトとスタッフが集まっていた。「お前のお別れ会だ」と島野が言った。

 ささやかな送別会に感謝しながらダイエーに移ったあと、機会は多くなかったが、鳥越は島野に会うたびに「よう頑張っとるな」と声をかけられた。特別打っているわけでもなく、守備要員でベンチに控えることが多かったから、「なんで? 全然ダメですよ。生活のこと考えるので精一杯ですから」と返しても、「いや、よう頑張っとる」だった。

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