プロ野球トライアウト外伝。「イップス地獄」から這い上がった男たち (6ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 祐實知明●写真 photo by Sukezane Tomoaki

「今回は自分の思うように体が動いたのが良かったです。去年に比べると、今年は満足のいく結果(シート打撃で7打数1安打)は出なかったんですけど、振り返ってみると去年や一昨年のトライアウトに比べれば、少しは成長できたのかなと思います。悔いはないです」

 そして、今後について聞かれると、きっぱりとこう答えた。

「僕のなかでは、今回のトライアウトが最後というつもりで受けたので。オファーをいただけることが一番いいんですけど、そうでなかったときは野球を引退しようと思っています」

 野球の「キャッチボール」は、しばしばコミュニケーションの比喩として使われることがある。たったひとつのボールを交わすだけで、相手からいろいろな情報が伝わってくるものだ。だが、このキャッチボールが満足にできなくなってしまったら、野球が一気につまらなく感じられてしまう。北方悠城と貴規は、こうしたどん底の真っ暗闇から這いつくばって、ここまで登ってきたのだ。

 2人に念願のオファーが届くかはわからない。だが、ともに野球の原点、楽しさを思い出したかのような表情に、悲劇性は少しもなかった。

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