主演・大谷翔平の起用に見る演出家・栗山監督「日本一へのシナリオ」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Kyodo News

 パ・リーグのCSファイナルは、リーグ優勝を果たしたファイターズが、ホークスの挑戦を退けた。

 その翌朝、札幌の街には雪虫(ユキムシ)が舞っていた。北海道にまもなく初雪が降ることを知らせる、冬の風物詩......札幌駅へ向かう道すがら、タクシーの運転手さんがこう言った。

「雪虫が飛んでるんだから、日本シリーズの頃はきっと寒くなりますよ」

ソフトバンクとのCSファイナル第5戦で9回のマウンドに上がった大谷翔平ソフトバンクとのCSファイナル第5戦で9回のマウンドに上がった大谷翔平 そんな話を聞いて、北の大地の厳しい冬を知らない本州育ちはのんきにこう混ぜっ返した。

「北海道の人にとっては、ああ、冬が来ちゃうなあって感じですか」

 すると運転手さんは、こう言った。

「いや、来ちゃうというより、冬が来るぞって感じですね」

 その言葉にビックリした。

 来ちゃう、ではなく、来るぞ──

 あえて「来ちゃう」を否定して言い換えるところに、北海道民の冬の"備え"に対するシビアさを感じさせられた。来ちゃう、などという待ちの心構えでは立ち遅れてしまう。来るぞ、と思って備えていなければ、厳しい冬に立ち向かうことなどできない。

 前夜もそうだった。

 先発の加藤貴之が立ち上がり、いきなり4点を失った。このとき、ファイターズの栗山英樹監督はこんなふうに考えていた。

「もう、攻め切るしかないでしょ。こっちも初回の4失点でガーッとなったからさ。こうなったからには、逆にここから絶対に勝ち切ってやる、何とかしてやるって思ったよね」

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