女房役・小田幸平が語る「山本昌、最年長勝利記録の真実」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

 134キロの真っすぐ、ボール球になってもいいというつもりで投げたインコースは、ストライクゾーンいっぱいに決まる。ゴメスは見送って、三振――。

「ゴメスは初球、昌さんのストレートを見て、このスピードならいつでもイケると思ったんじゃないですか。だからシュートかカーブを待っていた。そこへインサイドに真っすぐを突っ込んだから、タイミングが合わなかったんです」

 二度目のゴメスとの対戦は3回。山本昌はフォアボールとヒットで、ツーアウト1、2塁と、ふたたび得点圏にランナーを背負う。ここでバッターは、またも4番のゴメス。この場面、小田は一転、初球から続けてシュートのサインを出した。

「第1打席でゴメスは130キロ台のまっすぐ、しかもツーナッシングからの三球勝負を挑まれて、見逃しの三振を喰らったわけですよ。メジャーリーガーのプライドだって傷ついたでしょうし、今度こそあの真っすぐを打ち返したろうと思うのは当然じゃないですか。だから、シュート、シュートと続けて、カーブとスライダーを挟んで、またシュート。で、フルカウントになったところで考えたのは、第1打席の三振以上に、ゴメスが頭にくることって何だろう、ということでした」

 小田はサインを出した。

 しかし、山本昌が首を振る。

「しょっちゅうです(笑)。ひと試合に2回くらいは首振りますよ。でも、僕は一回もサインを変えたことはないんです。昌さんに首振られても、同じサインを出す。あの場面も変えてないですよ。『これです』ってサインを出したら、昌さんが『イヤだ』と言う。それでも『これだ』と同じサインを出したら、『しょうがない』って感じであきらめて、頷(うなず)いてくれました」

 小田が出したサインは、カーブだった。

「あそこはカーブでイケるという確信がありましたからね。フルカウントまでの過程を考えたら、一球もストレートを投げてなかったので、ゴメスとしては2打席続けてドーンと来られるのは絶対にイヤだったと思うんです。だから彼の頭の中には、決め球のシュートとストレートがあって、カーブはなかったはず。メジャーでもフルカウントからカーブを投げられたことはないんじゃないかと思ったし、昌さんもカーブの調子はよかった。イラついているゴメスにはいいんじゃないか と思って、カーブのサインを出したんです」

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