復活のマウンドへ。斎藤佑樹が導き出したひとつの答え (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 自分の中の恐怖感――彼はいったい、何を恐れているというのだろうか。

 ふと、思った。

 もしかしたら斎藤は、周りが勝手に用意する高いハードルを越えられない自分を恐れているのではないか、と。

“ハンカチ王子”だの“持ってる佑ちゃん”だのと、世の中が斎藤佑樹のことを特別視する。“王子”にしても“佑ちゃん”にしても、それが実像とかけ離れている自分だと思い込み、そんな自分を演じなければならないという目に見えない鎖(くさり)が、彼を苦しめてきたのかもしれない。斎藤自身も「今まで“佑ちゃん”という 自分じゃない自分を演じさせられていたのかな」と話していたことがある。

 しかし、本当にそうだろうか。

“ハンカチ王子”も“佑ちゃん”も、虚像ではない。どちらも斎藤佑樹の実像であり、斎藤佑樹の一部にしか過ぎないと、個人的には思う。むしろ“ハンカチ王子”や“佑ちゃん”が本当の自分ではないかと、今の斎藤を呑み込むほどの大きな存在だという先入観こそが、彼を苦しめているような気がしてならなかった。

 だから、シンプルなピッチングができないのだ。“ハンカチ王子”は負けない。“持ってる佑ちゃん”は期待通りに応える――そのために目の前の結果を求めるピッチングスタイルが間違っているのではないかと、ずっと思っていた。そして、そのことをもっともよくわかっているのが、他ならぬ斎藤自身なのである。じつは、斎藤がこんな話をしていたことがあった。

「目の前の結果にとらわれすぎて、今の自分の100%を出して、抑えに行こうとする。そこで変化球をこう曲げるとか、バッターの間をこうやって外すとか、それなりのテクニックは持っているから、勝つことはできるんです。だから、つい、初球からコーナーを狙って投げてしまう。たとえば初球、アウトローいっぱいに真っすぐが決まる。2球目もスライダーがギリギリのいいところに決まって、追い込む。でも、それまでがあまりにいいボールだから、ツーストライクから投げるボールがなくなっちゃう。要するに、カッコつけたピッチングをして、自分を追い込んでしまうんですね。そうではなくて、もっとアバウトに、ポン、ポンとストライクを投げて、最後にピュッと投げたらそれがコーナーいっぱいに決まれば三振、甘く入っても低めなら内野ゴロになるくらいの、難しく考え過ぎないピッチングをすればいいんです。それができれば、自分の中でのストレスもなくなると思います」

 結果の伴わない斎藤を見て、もっとガムシャラに、という声をよく耳にした。

 そうではないと思う。

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