首位奪取へ。矢野、下柳、藪が叫ぶ「阪神投手陣再建論」 (5ページ目)

  • 岡部充代●文 text by Okabe Mitsuyo
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

 昨年、その役割を果たしたのが松田遼馬だった。敗戦処理から徐々に重要な場面で起用されるようになり、今年は「勝利の方程式」に食い込むことが期待されていた。しかし、キャンプ中に右ヒジ痛を訴えて、離脱。前半戦絶望との報道もある。そこで、伊藤和が“起爆剤”の候補筆頭になるわけだが、ほかの選手にもチャンスはある。そこをつかみ取ってほしいというのが、OBたちの願い。

「二軍のある程度の選手はチャンスが多くなると思う。そこを貪欲につかんでほしい。先発で起用された秋山(拓巳)や歳内(宏明)にも、もう一度チャンスは来るだろうし、二神もオープン戦はよかったですからね。若手はどこまで伸びるか分からないのが魅力。ベンチには、もうちょっと辛抱して使ってほしい気もします。そうしないと、なかなか育っていかない。今、我慢して使えば、夏過ぎに出てきてくれる可能性もありますから」(矢野氏)

「今年はチャンスがたくさん回ってくるんですから、意地でも頑張るという強い気持ちを持ったピッチャーに出てきてほしい。もっと必死に、もっとやらんと。オレらの頃は、先発6人に入るのが大変だった。そこで競争してレベルアップしていた。今年は枠が空いていて、しかも打線が打ってくれる。うらやましいですよ」(下柳氏)

 最後に、矢野氏に「キャッチャーに何ができるか」を聞いた。

「投手の気持ちは大切だけど、キャッチャーはいい意味で“引く”ことができます。たとえば、能見は真っすぐに強いこだわりを持っている。それはいいことでもあるけど、バッターからすると逆に狙いやすい。このカウントでは真っすぐが来るだろうと読んだところに真っすぐが来るから、迷いなく振られる。それが開幕戦の能見。でも、3戦目(4月12日、対巨人)はチェンジアップをうまく使っていました」

 9回、先頭のアンダーソンからアウトコースで見逃し三振を奪ったが、それがチェンジアップだった。

「それまで、フルカウントではほぼ真っすぐ。あってもスライダー、フォークという中で、チェンジアップを使った。点差があったからトライできたことかもしれませんけど、あの1球がアンダーソンの頭に残ることで、次の対戦にも生きてきます。バッターを迷わせるためには、自分が変わることも大切。もちろん、状態が上がってきて、こだわりのある真っすぐで抑えられるようになれば、それでいい。引き出しは多い方がいいわけで、その引き出しを開けてやるのがキャッチャーの仕事ですよね」

 開幕スタメンマスクをかぶった清水誉や、ルーキーながら一軍ベンチにいる梅野隆太郎ら、若手捕手の育成は必須だが、苦しい台所事情を支えられるのは、藤井彰人、新加入の鶴岡一成といったベテランなのかもしれない。

 開幕前は、巨人が頭ひとつ抜けていると言われていたが、打線が活発な阪神と、投手力が安定している広島も好スタートを切った。「打線は水物」と言われるだけに、阪神投手陣が再建されるかどうかで、ペナントレースの行方は大きく変わっていきそうだ。

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