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外野席応援団のハンパない体力、知識、野球愛 (3ページ目)

  • photo by Getty Images

 開幕投手の吉川光夫が、コントロールに苦しみながらも何とか粘って序盤の3失点で踏ん張り、6回途中、ピンチで平野恵一を迎える。すると栗山英樹監督、なんとここでルーキーのサウスポー、金平将至への交代を告げた。そこですかさず前のオバサマが反応する。

「左対左なのに、左の新人に代えられちゃ、吉川も辛いわね~」(ごもっとも)。

 毎回のようにランナーを得点圏に送りながら、あと一本が出ないファイターズにオバサマ方の欲求不満は募る。1点を追う7回、ツーアウト3塁で、この日、3番に入った大谷翔平。金子千尋の初球を叩いて、同点ツーベースを放つや、周囲のファンと歓喜のハイタッチを済ませると、オバサマ、こう仰る。

「だって大谷、第1打席から全部、初球を振りにいってるもんね~」(よくご覧になってます)。

 同点のまま延長11回に突入、試合は4時間半を越えて、5時間に迫ってきた。バファローズのマウンドには馬原孝浩がいる。

「馬原、間合い、長すぎよ。いい加減、テキパキ投げてもらわないと、足が疲れるわ~」(どうぞお座り下さい)。

 そうかと思えば、オバサマ方がワンセグの生中継に見入っていたのは、野球ではなくフィギュアスケートの世界選手権だったりする。男子フリーでソチ五輪金メダリストの羽生結弦がトップに立った瞬間、「きゃ~っ」「やった~」と、一斉にあちこちから上がった黄色い声。おそらくこれも、外野席にいなければ、何の歓声かわからなかったかもしれない。

 いやはや、外野席は楽しい。

 野球というのは、球場のどこから観戦するかによってずいぶん違って見えるのだが、札幌ドームの外野席からは、ネット裏の記者席から見るのとまったく違う野球が見えた。

 中田の守備位置は深く、陽岱鋼は浅い。中田は背走よりも肩に自信があるのだろう。逆に陽岱鋼は背走に自信があるから、あんなに浅く守れるのだ。さらに大谷がライトに入ると、またも美しい外野陣が形成される。思えばSHINJOの時代から、ファイターズの外野陣は美しい。SHINJOが去り、森本稀哲が去り、糸井嘉男が去って稲葉篤紀が一塁を守るようになっても、伝統は受け継がれていく。

 レフトの中田翔が、ピッチャー交代の間、外野席でグラブを持ったファンとキャッチボールを始めた。選手がスタンドのお客さんにボールを投げ込む姿は珍しくないが、投げ込んだボールを投げ返せと要求する姿はめったに見られない。それも、相手のお客さんを代えて、5球、6球とキャッチボールが続く。なんと微笑ましい光景だろう。

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