10勝到達。阪神・藤浪晋太郎を支える最大の武器とは何か? (2ページ目)

  • photo by Nikkan sports

 それに6月に入って、1カ月近く勝てなかった時期がありました。普通、勝てなくなるといろんなことを試そうとして、余計に練習をしてしまうものなんです。それによって、かえって調子を落とす選手は結構います。でも、藤浪はそれまでと何ら変わりなく、いつも通りの練習をしていました。ここが並のルーキーと違うというか、自分のことを本当によく知っていますよね。要するに、彼の最大の武器は自己分析力だと思います。ある意味、これは才能かもしれません。

 プロに入ってくる投手は、自分のことをある程度分析できていると思うのですが、それを勝ちにつなげるにはどうしたらいいのかまでは、わかっていない。でも藤浪は、調子が悪くてもその日使える球を探して投げている。今の自分に何ができて、何をしたらいけないのかがわかっている。ピッチングを見ていても、打たれたらいけない場面でのコントロールミスがほとんどない。ここが勝てるピッチャーと、勝てないピッチャーとの大きな差だと思います。

 以前、本人と話をしたことがあるのですが、ちょっと難しい質問をしても簡単に返ってくる。すでにプロの世界で10年以上やっている選手のような雰囲気を醸(かも)し出していました。野球をよく知っているし、自分のこともよくわかっている。

 だからこそ10勝を挙げられたし、セ・リーグ5球団から勝ち星をマークできたのだと思います。大体、どのチームも、4月の終わり頃になるとデータが揃いはじめて、攻略法を考えていくものなんですが、彼のピッチングを見る限り、データをしのぐ勢いで成長しているのでしょう。ストレートの威力はもちろんですが、ピッチングも日に日にうまくなっているような気がします。これから体もできてくると思いますし、球速もまだまだ上がっていくはずです。そこにうまさが加われば、ますます手がつけられないピッチャーになるでしょう。

 ここまでは言うことがないぐらい素晴らしい活躍をしていますが、唯一、不安な点を挙げるとすれば、これから体ができてくることによって、フォームがまとまってしまうことです。フォームがまとまること自体は悪いことではないのですが、それによってこれまで投げられていた球が投げられなくなる可能性が出てくる。フォームがまとまっても、今までと同じように右打者に食い込んでくるボールを投げられるのか。それがこれからの課題になるでしょう。意識的に右打者の胸元にシュートを投げられるようになれば、間違いなく勝ち星は増えるでしょうし、もっと楽に勝てるかもしれない。

 いずれにしても、これまで6人しか到達できなかった記録を果たしたわけですから、少なくとも超一流の大投手になる可能性はあります。これからどういう風に成長していくのか、本当に楽しみな投手です。

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