大谷翔平の身体にいま何が起きているのか エドマンの復帰を支えた専門家が語る「投打走」の負荷 (2ページ目)
【「右投げ左打ちの二刀流」の観点からの分析】
エドマンの復帰過程からわかるのは、痛みが軽減しただけでは競技復帰にならないということだ。まず患部の可動域と安定性を取り戻し、基本動作から野球動作へ段階的に負荷を上げる。患部に好ましくない反応が出れば前の段階へ戻り、動作や負荷を調整することができる。
ところが、大谷は投手としてリハビリ中でありながら、打者としては毎日が実戦だった。ブルペンで投球数を増やした日にも打席に立ち、出塁すれば全力で走り、減速してベースを回る。左膝への投球負荷を慎重に増やす一方、打撃と走塁による負荷を完全に取り除くことはできなかった。
通常ならひとつずつ積み上げる負荷を、大谷の場合は並行して管理しなければならない。しかも、ブルペン後の身体の反応が投球によるものなのか、試合の疲労によるものなのか。投球、打撃、走塁のどの負荷が影響したのかを切り分けるのも難しい。
マクダニエルは、その違いをこう説明する。
「一般論として、翔平は右投げ左打ちなので、膝に求められる動きが違います。投球と打撃では脚の使い方が異なる。それが最も大きな違いだと思います」
投球時、大谷の左脚は着地脚になる。右脚でプレートを蹴って前方へ移動した身体を左脚で受け止め、骨盤と上半身を回転させて右腕を振る。地面に固定された左脚には、着地の衝撃と回転によるねじれが加わる。大谷自身、投球メカニクスが左膝の問題の一因だったと説明していた。離脱中には、着地時に身体が閉じた状態になりすぎず、少し開くことで膝へのねじれを減らす修正に取り組んだという。一方、左打ちのスイングでは、左膝にかかる力の方向もタイミングも、投球時とは異なる。したがって、打者として出場できることと、投手として復帰できることは同じ意味ではない。
走塁にも特有の負荷がある。
「私たちは走ることを直線的な動きとして考えがちです。しかし、特に翔平は強い打球を飛ばし、長打も多い。野球の走塁には回転を伴う動きが多く、陸上競技で走る時とは異なるストレスが膝にかかります」
野球では直線的に加速するだけでなく、ベースの手前で減速し、身体を内側へ傾けて方向を変え、再び加速する。大谷は8月中旬、トップスピードに乗りづらく、ベースを回る際に外側へ膨らむと明かしていた。9月1日にも、三塁へ全力で走って急停止したあと、左膝を伸ばす姿が見られた。ロバーツ監督は「急に止まると、膝の前側にかなり負担がかかる」と説明している。
ここで整理しておきたいのは、左膝の問題と、9月2日の打席で見せた右腕の異変は分けて考える必要があることだ。左膝は主に投球時の着地や走塁に影響している。一方、大谷が最後の打席で右腕を振り、顔をしかめていた際に問題を感じていたのは、主に右上腕二頭筋から首周辺だった。肩にも近い部分だが、これまでの画像検査では、肩そのものに異常は確認されていないという。監督によれば、症状が急激に悪化したというより、改善しない状態でスイングによる負荷が積み重なっていた。それが9月2日の打席で目に見える形になったという認識だ。左膝が現在のスイングに影響している兆候はなく、「膝は投球のほうの問題だと思う」とも説明している。
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