【MLB】岡本和真の現在地 加藤豪将氏とシュナイダー監督が語るブルージェイズの流儀とは? (3ページ目)
【「アウトではなく点を防ぐことが目的」という考え方】
一方、守備については、よりチームのコンセプトに基づいて動く必要があり、多くのアジャストが求められる。『ベースボールサバント』によると、岡本の守備は三遊間など横の動きに課題があり、特に右打者の引っ張りに弱いとされている。しかし、それは一歩目が遅いとか、レンジが狭いといった単純な話ではない。岡本が今、足を踏み入れているのは、これまでとは異なる守備の考え方だ。
加藤氏はこう説明する。
「何が守備で重要かを理解し、それにどうやって到達するかを考えて守るのがメジャーの野球です。アウトを取ることが目的ではなく、点を防ぐことが目的なので、カルチャーショックというより"野球ショック"から始まります」
そのアウトがどれだけの価値を持つのか、どの打球を防ぐことが最も失点を減らすのか、そうした発想に基づく守備なのである。ゆえに岡本は、同じ三塁を守っていても、毎打席異なる位置を守っている。時には深く、時にはライン際へ。感覚ではなく、データに基づいた配置だ。配られる「守備のカード」をもとに、ヒットを防ぐために前に出るのか、長打を防ぐためにラインを切るのかを選択する。だが、どちらを選んでも、もう一方のリスクは残る。三塁とは、常に「何かを捨てる」ポジションなのである。
実はブルージェイズは昨年、守備の考え方を大きく転換した。従来は打球が飛びやすい位置に守るのが基本だったが、2025年からは状況に応じてライン際を優先し、長打を防ぐ配置を取るようになった。この割りきりは言葉にすれば簡単だが、現場では混乱も生んだ。
加藤氏は2025年を振り返り、「モデル(データに基づく意思決定ツール)の強みと弱点がわからず、苦労した」と明かす。だからこそ、そこに"人"が必要になる。その役割を務める内野守備コーチはドミニカ出身のカルロス・フェブレス。「バランスを保つのが本当にうまい方で、僕もすごく仕事がしやすいです」と加藤氏は言う。コーチはデータを現場に落とし込み、選手に「なぜそこに立つのか」を理解させる役割を担う。日本とアメリカ、両方の野球を知る加藤氏は、岡本にその"翻訳"を試みている。
日本人メジャーリーガーで、正三塁手として最も多く先発出場したのは、タンパベイ・レイズ時代の岩村明憲で129試合にとどまる。投手と違い、野手には前例が少ない。しかし加藤氏は「ちょっとずつ学んでいけば、こっちでもゴールドグラブを取れる可能性はあると思う」と期待を寄せる。
現在のメジャーで最高の三塁手といえば、ホセ・ラミレス(クリーブランド・ガーディアンズ)、アレックス・ブレグマン(シカゴ・カブス)、マット・チャプマン(サンフランシスコ・ジャイアンツ)らの名が挙がる。そこにどこまで近づけるかは未知数だが、ブルージェイズの評価は高い。
「契約前のミーティングでも、(本人に)まだ大きな伸びしろがあると伝えました。選手育成というわけではありませんが、岡本選手自身もどこまで伸びるかを楽しみにして来てくれたと思います。もちろん我々も大きな期待を持っていますし、確実に伸ばせるという自信があります。彼は今、そのプランに乗っている段階です」(加藤氏)
身長185センチ、体重99キロの岡本は、メジャーのクラブハウスにあって、ひときわ大きいわけではない。それでも、張り出した臀部と分厚い太ももは強烈な存在感を放つ。その存在感こそ、"BIG OAK"の名にふさわしいのである。
著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
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