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佐々木朗希はいつ自らの速球を再発見したのか リリーフとしての成功を導き出したドジャースの組織力 (3ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【ドジャースvsブルワーズは次期労使交渉の象徴?】

 昨オフ、ドジャースがスネル、佐々木、スコットといったFA市場の大物を次々に獲得したことで、MLBの一部オーナーたちは「野球界が壊れつつある」と騒ぎ立て、ドジャースこそがその元凶だと声を荒げた。そして戦力の均衡を保つためには、サラリーキャップ(年俸総額の上限)制度の導入が必要だと主張した。現行の労使協定は来季終了後に失効する予定で、ロブ・マンフレッド・コミッショナーも「必要ならロックアウト(選手の締め出し)も辞さない」と発言している。

 これに対し、選手組合は断固として反対の姿勢を崩していない。ニューヨーク・メッツの主砲ピート・アロンソ一塁手は、「みんなわかっている。ロックアウトで試合が削られるってね。俺たちは絶対にサラリーキャップには反対する」と語り、一歩も引かない構えだ。ご存じのとおり、1994年、サラリーキャップ導入をめぐり労使交渉が決裂、ワールドシリーズが中止に追い込まれた過去がある。

 そうしたなか、今夏、『ロサンゼルス・タイムズ』紙は「今年はブルワーズを応援すべきかもしれない」と意外な見出しの記事を掲載した。スモールマーケット(小規模市場)の球団であるブルワーズは、年俸総額わずか1億3911万ドル(約208億6650万円)ながら、今季は97勝65敗とメジャー全30球団のトップに立った。しかも、公式戦でドジャースに6連勝を飾っている。さらに、今季だけでなく過去7年間で6度のプレーオフ進出を果たし、スモールマーケットの球団でありながら持続的な成功モデルを築いている。もしブルワーズが今年世界一に輝けば、サラリーキャップが必要だという意見は説得力を失う。そしてシーズンキャンセルの危機も回避できるかもしれない。

 ちなみに、前回の労使交渉(2021~22年)でも労使は揉め、99日間にわたるロックアウトの末、3月10日に現行の協定が締結された。ギリギリで162試合制のシーズンが維持されたのは、記憶に新しいところだ。

 今、佐々木復活のドラマは私たち野球ファンを魅了する。すばらしいストーリーであり、球団も含めた努力と再生の象徴でもある。しかしその陰で、ドジャースが勝てば勝つほど、次の労使協定の交渉は難航することになる。この快進撃を純粋に喜んでいいのか。

 ナ・リーグ優勝決定シリーズは、ドジャースとブルワーズの対戦となる。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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